来る日も来る日もXをして
「な、なんでここに!?」

窓際の座席に座る私の隣に座ってきた忍くんは『菘さん、車内ではシーッですよ。』と言って私の唇に人差し指を当てた。

「イケナイ唇ですね。お仕置きしましょうか?」

そんなことを言って顔を近づけてくる。

「何言ってるの!?それこそ車内じゃ・・・。」

「車内じゃなきゃいいんですか?」

「ダメだよ!」

「はは、冗談ですよ。本気で慌ててるし。あ、コーヒー飲みます?」

そう言って差し出してくれたのは見覚えのあるプレミアムコーヒーで、明日先輩のことを思い出し胸がズキン、と痛む。

───もう忘れる。私、告白の返事してないし、私達は何も始まってなかった・・・そう思うようにしないと・・・。

「というかなんで長野(ここ)にいるの?羽田(空港)待ち合わせだったよね?昨日はご実家に帰ったんでしょ?」

「帰って父親と一日飲んで語って、最終の新幹線でこっちに来て泊まって姫をお迎えに上がりました。送らなくて大丈夫って言われたけど、迎えに来なくて大丈夫とは言われてないし。」

「・・・。」

「新幹線のホームまでご家族が送りにいらっしゃるかと思って、出くわさないように一つ前の駅から乗って潜んでたんです。どうしても心配だったから。迷惑なら降りますけど。」

忍くんの気遣いに胸がつんつんとつつかれたように感じる。

「・・・驚いたけど、迷惑なんかじゃないよ。」

「そう言ってくれると思ってましたよ。菘さんを落とすには無理矢理押していくくらいじゃないとね。言葉足らずに曖昧に接してなんかいたら気持ち伝わらなそうだし、秘密とか作らずに全部話していかないと心開いてくれなそう。」

「・・・。」

───それって明日先輩のこと・・・?まさか。忍くんは何も知らないんだし。

「あ、眠いですよね。僕起きてますから寝てください。着いたら起こします。」

「や、でも・・・。」

「何もしませんから。菘さんの寝顔を堪能させて頂ければ充分です。」

「そんなこと言われたらより寝づらいよ。」

「僕がここでガードしてますから。他の人には菘さんの寝顔見せたくないんで。」

忍くんのその言葉が連れてきたのは『キュン』とは別の気持ちだった。
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