来る日も来る日もXをして
もっさりした黒髪で牛乳瓶の底のようなメガネをかけ、マスクをしている東雲くんはどこにもいなかった。

ピンクアッシュのスマートマッシュヘア、色白肌にぱっちり二重、いつもは髪で隠れている耳にはいくつものピアス。目元と口元のホクロがセクシーで、メイクもしていると思われる。胸元の開いた黒いバスローブを身にまとった東雲くんは、明日先輩をはるかに超えるチャライケメンだった。

「こんばんは。遅かったですね。」

いつものボソボソしゃべりと違う、堂々としたしゃべり方という違いはあるが、確かに東雲くんの、少し高めな声だった。

「し、東雲くん・・・!?」

「あぁ、外見ですか。この姿で外歩くと女の子寄ってき過ぎて大変なんで、オーラ消してます。」

「そ、そうなんだ・・・。」

動物の勘が警告音を鳴らすが『話をするだけ。明日(あけひ)先輩の例もあるし、人を見た目で判断しちゃダメだ。』と自分に言い聞かせ、廊下を進む東雲くんについて行く。両側にいくつも部屋があるし、そもそもこの廊下は一体どこまで続いているのか。

「す、すごいおうちだね・・・。」

「そうですか?実家に比べたらずっと狭くて。せめてこのフロア全部くらいの広さはほしかったですけど。」

「は、はは、そうなんだ・・・。」

───そんなに広かったら、家の中で自転車移動しないとだめじゃない・・・。

「あ、あの、早速で申し訳ないけどお手洗いお借りしていい?」

───緊張というかよくわからない尿意が・・・!

「どうぞ。一番近いのは少し戻ったところです。」

───トイレいくつあるねーん!!ショッピングモールかーい!!

またエセ関西人が現れた。

トイレもエレベーターに引き続き住めそうな広さ、しかし落ち着かない豪華さで、トイレットペーパーまで上質過ぎて恐縮してしまった。

用を足したところで気持ちは全く落ち着かないまま、やたら凝ったデザインのダブルボウルの洗面所で手を洗おうとして左側にある壁に驚いた。
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