来る日も来る日もXをして
「ふ、二人とも、遅刻するよ!」

叫ぶように言うと東雲くんはマスクを外し美彩ちゃんの耳に『ふっ』と息を吹きかけ、彼女から『あんっ!』と朝にふさわしくない声が出た。それだけで感じてしまったようですっかり色づいた声を出す。

「・・・ね、今夜家に行ったら、誰か教えてくれる?」

「・・・僕のこと楽しませてもらえたら、教えてもいいですよ。」

「やった。忍くんのとこに置いてあるコスメ切れてるのあるから買ってから行くね。菘先輩、行きましょ♪」

美彩ちゃんはスキップするように走りながら『あんなラグジュアリーマンションに行くんだからもっとかわいい服で来ればよかったな。服も買って行こ♪あ、下着も!』と一人言を言っている。ここまでの二人の会話からやはりあのコスメ類は彼女のものだったのだと思わざるを得ない。

東雲くんがどんな表情をしているのかは予想がついていたけれど、後ろを振り向いてみると、笑いをこらえきれない、という様子だった。それは美彩ちゃんではなく私に対してだろう。逆効果だと思うのに思いきり睨み付けてしまい、彼はついに立ち止まって笑い始めた。ウィッグであろうそのもっさりヘアに鳥のフンが命中すればいいのに、と全力で祈った。
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