来る日も来る日もXをして
「ありがとうございます・・・。」

美容院で髪を乾かしてもらうのと同じなはずなのになんだかすごく恥ずかしい。鏡の中の明日先輩と目を合わせることは出来なかった。

「いや、急にごめん。衝動をおさえきれなかった。」

先輩は決まり悪そうに俯いた。

「衝動って・・・?」

「更科の髪、触れて乾かしたいと思った。髪綺麗だからっていうのもあるけど、それだけじゃなくて・・・更科の髪だからっていうか・・・。」

「!?」

───ど、どういうこと!?

「それにしても見事に真っ直ぐな髪だよね。」

高部(たかべ)さんや楠木(くすのき)さんみたいなゆるふわパーマに憧れてるんです。でもアイロンで巻いても家出る前に真っ直ぐに戻っちゃうし、パーマかけてもちゃんとかからなくて。カラーも全然染まらないからブリーチしないと駄目かもって・・・。」

真っ黒で真っ直ぐな髪はコンプレックスだった。『固い』と言われてしまう性格はなかなか変えられないので、外見だけでも柔らかい、大人フェミニンな感じにしたかった。なのでベビーフェイスを優しげなメイクで彩り、洋服もシフォン生地など柔らかな素材を身につけるようにしていた。でも髪はどうにもならなかったのだ。

「俺は好きだよ。」

「え?」

「更科の髪。更科らしくて。凛としてて、融通がきかなくて。なんか愛おしいって思う。」

先輩はそう言って指で私の髪をすいた。

───私の髪が私らしくて、先輩はその髪が好きでって、そ、それって・・・!?いや、そんなまさか。私のこと好きなわけではないって言ってたじゃない。

「こっち向いて。」

「な、なんでですか!?」

───恥ずかしくて見れるわけない!

「・・・じゃ、俺が。」

明日先輩が私と鏡の間に割り込む。と、唇に温かく柔らかい感触を感じた。突然のことに思わず鏡を見ると私達は唇で接続されていた。
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