来る日も来る日もXをして
「は、離してください!」

口ではそう言いつつ、足は1ミリも動かせなかった。

「湯たんぽ使ってる?」

明日先輩が唐突に言う。そう言えば昨夜、先輩との電話で使用を提案されていた。

「いえ・・・。」

「ま、昨日話したばっかりだしね。俺、買うから使って。」

「そんな!いいですよ!というか離して・・・」

「俺が買ったの使ってくれるって言うなら手離す。」

「~っ!わ、わかりました!」

そう返すと明日先輩は布団の中でもぞもぞと動いてそのまま私の隣から顔を出した。

「!?」

「やっぱり、一緒の布団寝るなら隣がいい。」

再び時計に例えると、短針の私が5、長針の先輩が4の位置に来て、ふたりで5時20分を示していた。

───何それ!?先輩って寂しがりや!?甘えん坊!?

しつこいようだが明日先輩は会社では俺様で自己肯定感の権化のような人なのだ。自分が世界の中心、他人に興味なんてない、そんな感じなのに。

「何もしないから。だめ?」

訴えかけるような目で見てくる。またそうやって私の心を揺さぶるんだ。

「い、いいですよ!でも私はこっち向いて寝ます。」

そう言って寝返りを打ち先輩に背中を向ける。あんなに綺麗な顔を見ながら寝られるわけがない。刺激が強過ぎる。

「え~・・・。」

先輩が不服そうな声を出す。

───『え~・・・。』じゃないよ!自分が私を動揺させてまくってること自覚して!

「そっち向いちゃうならもっと・・・。」

後ろでごそごそ動く気配がして背中が温かくなった。
< 71 / 162 >

この作品をシェア

pagetop