暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「ここでいいのか?」
「はい」

いつものように近くのコンビニで車を降りようとした私は、家の前まで行くと言い張る副社長に押し切られ自宅の前まで送ってもらった。

「普通の家だな」
「ええ」

職場でも会長の知り合いで縁故採用されたと聞いた仲間達は大金持ちのお嬢様を連想するらしい。
でも実際はごくごく普通の一般家庭の娘。
父は役所に勤める公務員だし、母は専業主婦。
たまたま父の趣味が囲碁だったせいで会長と親しくしているけれど、決して裕福な家ではない。

「じゃあ行きますね。送っていただきありがとうございました」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
「はい」

車を降り、走り去る副社長の車を見送ろうとしたけれど、車は止まったまま。
どうやら私が家に入るまでは動く気がなさそうだと気づき、私は玄関へと向かった。

今が深夜でよかった。
住宅街には不釣り合いな高級外車が止まっていれば近所の評判になったことだろう。
私が家に入るのを確認してから重厚なエンジン音を響かせて走り去る車を見ながら、やっぱり住む世界が違うなと私は感じていた。
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