暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「何でそう思うの?」

私としては常に上司として接しているつもりだったから、美愛がなぜそう思ったのかが聞きたかった。

「魔王に買ってもらった服を着て出かける時の望愛はとっても楽しそうな顔をしているの気が付いていた?」
「いいえ」
いつも通りのつもりだった。

「こうして魔王の話をするときもとっても幸せそうで、恋する顔をしているのよ」
「嘘よ」
そんなはずない。

「それに、私が『魔王』って呼ぶの嫌でしょ?」
「うん」
確かにそれは嫌だな。

「自分が彼をけなすのは平気でも、他人から悪く言われると腹が立つ。それは望愛にとって彼が特別な存在だってことよ」

うっ。
返す言葉がなくなった。

普段から傍若無人な副社長に対して、「もう」と文句を言ってしまうことは多い。
それでも、周りから副社長の悪口を言われると無性に腹が立つ。
これは、美愛が言うように副社長を好きになっているってことだろうか?
いや、でも、まさか・・・

「じゃあ、想像してみて。今夜限りで二度と彼に会えないとしたら、望愛は平気でいられる?」
「今夜限りで、二度と・・・」

あの声も、顔も見ることのない生活。
それは・・・
無意識のうちに頬を涙が伝っていた。

「それが答えよ」
なぜか楽しそうに微笑む美愛。

「ごめん、寝るね」
私は逃げるように、自分の部屋に駆け込んだ。
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