暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
近づく距離
「クシュンッ」

花粉症でもないのに、今朝はくしゃみが止まらない。
そう言えば急に寒くなったから、風邪でもひいたかな。
気を付けないと、美愛にうつしたら大変だわ。

「どうした、風邪か?」
開け放たれたままのドアの向こうから副社長が声をかける。

「大丈夫です。少し鼻がムズムズするくらいです」

まだ風邪とまで言える症状はない。
きっと温かくしていれば回復するだろうと、この時の私は思っていた。

トントン。
「失礼します」
いつものように入って来た谷口課長。

「おはようございます課長」
「坂本さん、おはよう」

挨拶もそこそこに副社長のもとに歩み寄る表情は、幾分緊張気味に見える。
どうやら何かあったらしいと、私は近づくことなくその場で足を止めた。

「何だ?」
課長の顔から何かあったのだと、副社長も感じたらしい。

「白鳥家が痺れを切らしたようです」
「白鳥家が?」
「ええ。いつまでものらりくらりと交わしているから、強硬手段に出てきました」

白鳥家とは綾香さんのお家。
でも、強硬手段とは・・・
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