暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「大丈夫か?」

午後になって、会議で席を空けていた副社長が戻ってきた。

「ええ、大丈夫です」
私よりも創介副社長の方が大変なんだから、弱音を吐いてなんていられない。

「綾香さん、相当怒っているな」
「そうですね」

電話は相変わらず止まらないし、初めのうちは創介副社長と綾香さんの熱愛報道中心だった書き込みも、時間が経つにつれて創介副社長に対する暴露記事が増えていった。
ありもしない女性遍歴や金にものを言わせた豪遊エピソードなんてかわいいもので、学生時代からグレていて今でも暴力と恫喝で従業員や取引先を支配する人間だと、まるで見てきたように書かれているものまである。
正直、これが全て綾香さんが仕組んだものだとするとあまりにも怖すぎる。

「もうしばらくは周辺も騒がしくなると思うから、よろしく頼むな」
「はい」

仕事は仕事、だから外野の声は聞かずに淡々とこなすしかない。

「それより、なんだか顔色が悪くないか?」
心配そうに副社長が私の顔を覗き込む。

「そうですか?」
とは言ったものの、昼過ぎから頭痛が続いている。
珍しく食欲もなくて、お昼も飲み物だけで終わってしまったし、調子が良くないのは間違いない。
それでも今はそんなことを言っている余裕もないからと、自分の体調不良を忘れていた。

「熱があるんじゃないか?」
「いえ、あっ」
ためらうことなく額に手を当てられて、小さく声を上げた。

大きな手のひらから伝わってくるのは暖かさではなくて、心地のいい冷たさ。
どうやら私は熱があるらしいとこの時になって知った。
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