暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
廊下で倒れ込んだ彼女を抱え歩き出した俺に、「風邪をひいた私がこのまま家に帰る訳にはいかないんです」と彼女が言った。
最初はただ俺を止めたくて言っているのかと思っていたが、その切羽詰まった表情から事情があるのだとわかった。

とりあえず話を聞くために部屋に戻り、応接用のソファーに座らせると、彼女は家庭の事情を話しだした。

彼女には姉妹が一人。
それも双子の妹らしい。
その妹さんが子供の時から病弱で、今は心臓を悪くして在宅酸素を持っての生活らしい。
当然のことながら感染症には厳重な注意が必要で、家族全員が風邪をひかないように気を付けている。
だから、風邪をひいて熱の出た自分か家に帰る訳にはいかない。
と言うのが彼女の言い分だった。

「じゃあうちのホテルの部屋をとろう。そうすればいいだろ?」
「とんでもありません、どこか友達の家にでも」
「風邪をひいているのに、人の家に泊まる気か?」
さすがにその方が非常識だろう。

「でしたらどこかのビジネスホテルに」
「バカ、職場がホテルなのにわざわざよそを探す必要がどこにあるんだ」
「しかし、私が泊まるには高級で・・・」
「気にするな、俺が手配する」

その後、遠慮する彼女の気持ちも汲んで、セミスイートの部屋をとった。
それでも四、五日泊まれば彼女の月給は飛んでいくだろうが、最初から払わせるつもりは無い。
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