暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「でしたら、私は帰ります」
「え、どうして?」
意味が分からないって顔で創介さんが私を見ている。

仕事もせずにただここに座っているなんて事ができる訳がない。
それでは私がここにいる意味がない。

「高井さんがいれば仕事が回るんでしたら、高井さんに専属秘書をお任せになればいいじゃないですか。私みたいな役に立たない素人を置いておく必要はないでしょ?」
「望愛?」

いきなりキレてしまった私に、創介さんが驚いた顔をする。
秘書として、部下として、褒められた態度でないのはわかっているけれど、私だって我慢できないときはある。

「私なんていなくてもいいんです」

小さいころから父も母もあまり私のことを見てはくれなかった。
さすがに小さな頃には『もっと私を見て』とアピールしたけれど、そのうちに美愛がかわいそうなのも理解できるようになり両親の愛情を求めなくなった。
『私なんていなくてもいい』心のどこかで私はいつもそう思っていた。

「どうしたんだ、桃が何か言ったのか?」

桃。
普段女性を呼び捨てになんてしない創介さんから出た言葉が、私の心に刺さった。
やはり桃ちゃんはただの部下ではないんだ。

「何も言われてはいません。ただ、今日は朝から色んな事がありすぎてまだ動揺しているのかもしれません」
「そうか、そうだなきっと。今日は帰って休むといい」
「そうさせていただきます」


私は課長に早退届を出して帰宅した。
明日金曜日から創介さんは大阪出張で不在。
その後土日を挟むから少なくとも三日間は考える時間がある。
その間に今後のことを考えようと、私は決めていた。
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