暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
金、土、日曜日と、私は創介さんの電話に一切出なかった。
数えきれないほど送られてくるメッセージに返事もすることなく、無視し続けた。
こんなやり方は卑怯だと私もわかっている。
それでも、すでに創介さんのことが好きなんだと気づいてしまった私には、気持ちを整理する時間が必要だった。
そんな悶々とした気分でさあ明日からどうしようと思い悩んでいた日曜の夕方、階段の下から私を呼ぶ母さんの声がした。

「望愛、降りていらっしゃい」
「はーい」

一体なんだろう。
またお醤油やワサビが足りないからって駅前のスーパーまで買いに行かせるつもりかしら。
もしそうなら少々高くても近くのコンビニで済ませよう。
とてもじゃないけれど、今は買い物に行く気分じゃない。

「母さん、何?」

気配がする廊下の先に目をやって、
えっ。
私は固まった。

「ど、どうして?」
うちの玄関に立っていたのは、スーツ姿の創介さんだった。

だって今日は夜まで会議の予定が入っていて、明日の帰京スケジュールだった。
こんな時間に東京にいるはずがないのに。

「少し話がしたい」
「私は別に」
話すことはありません。と言おうとしたのに、
「お母さん、望愛さんをお借りしてもいいですか?」
「え、ええ」
先に母さんの了承をとってしまった。

「望愛」
動こうとしない私の背中を母さんが押してくれるけれど、私の足は動かない。

「どうしても望愛に会いたくて、夕方の会議を一つ変更してもらって帰って来たんだ。だから、今夜中に大阪に戻らないといけない」
「そんな・・・」

「望愛、行ってきなさい」
話し声を聞いて出てきた父さんにまで言われ、私はやっと玄関へと向かった。
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