暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
普段は怒りんぼで、すぐにイライラする創介さんが今日怖いくらい穏やかだ。
答えに困り黙り込んでしまった私がもたらした沈黙の時間も、静かに待っていてくれる。

「何があった?」
「なにもありません。ただ、少し距離を置いたほうがいいかなと思って」
「距離って、どういう意味?」

うーん、どう説明するのが一番いいんだろうか。

「あまりにも近づきすぎて、秘書しての範疇を超えているような」
「そりゃあそうだろう。俺は望愛のことを秘書だとは思っていない」
「そんな・・・」

それまで一生懸命押さえていた感情が一気に溢れた。
人前で泣いたことなんて数えるくらいしかないのに、零れ落ちる涙を止めることができなかった。

酷い、酷すぎる。
私だって優秀な秘書だったというつもりは無いけれど、私なりに頑張って来た。
一生懸命勉強もして、少しでも役に立てるようにと努力もした。
それなのに・・・

「望愛、何で泣くんだよ」
慌てたように創介さんが肩に手をかけるのを、
「やめて」
私は振り払った。

「一体どうしたんだ」
創介さんは完全に困り顔だ。

創介さんが特別鈍いのか、男の人が皆そうなのか、どちらかわからないけれど余りにも鈍感すぎる。
私は無性に空しくなって、泣き続けた。
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