暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
それからしばらく後、副社長室は緊迫した空気が張り詰めていた。

「で、何が言いたい?」
「ですから・・・」
一生懸命事情説明をしようとする男性に、話の要点を求める副社長。

今この部屋にいるのは機嫌が悪そうな顔をした副社長と、企画部の部長と課長と担当者の男性。
4人が応接セットに向かい合って座り、私は入り口ドアのあたりに立っている
一緒に入って来たはずの谷口課長はいつの間にか消えていた。

「我々もできる限りのことはしましたが、先方の意志が固くて・・・」
「そうです、こう無理難題を押し付けられましても・・・」
課長と部長は口々に言い訳めいた言葉を口にする。

話の内容は、この夏のイベントとして企画されたライブに関することだった。
それは、今年開業100周年を迎える一条プリンスホテルの企画としてホテルにゆかりのある新旧の大物歌手を集めてライブを行うというもの。
そこにメインとして決まっていた女性歌手がキャンセルしたいと言って来たと言うのだ。

「あと2か月だぞ、今更なぜキャンセルなんで言い出すんだよ」
やはり副社長は不満そうだ。

そりゃあそうだろうと思う。
どんな小さなイベントでも、その日のためにスタッフたちは必死に準備をする。
その日その時のために時間を費やして、みんな一丸となる。
ましてやホテルの100周年を記念したイベントとなれば一年、いやそれ以上前から準備が進められていたはず。
それを今更中止なんて・・・

「ダメだ、中止は認められない」
副社長の冷たくて硬い声。

「でも・・・無理なんです」
それまで口を閉ざしていた若い男性担当者が、苦しそうに話し始めた。
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