暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
担当者の男性が言うように、女性歌手のわがままぶりは有名だ。
普段からネットや雑誌で話題になることも多いし、テレビに出ている時の言動をとっても横柄で自分勝手な印象。
もちろんその性格を補って余るだけの才能があり、歌声と歌唱力は群を抜いている。
でなければ、芸能界で売れることなんてできないだろう。

「仕事上のことであれば、できることは何でもやってきました。彼女のわがままを聞いて他の出演者の衣装やセットを変更してもらったり、スタッフだって指定された人のスケジュールを押さえてもきたんです。それでも」
そこまで言って、また男性担当者の言葉が止まった。

どうやらよほど言いにくいことらしく、その先の声が聞こえてこない。

「彼女は彼に、一晩付き合えって言ったんです」
「え?」

言いにくそうに黙ってしまった担当者に代わり口を開いた企画課長の発言に、会話から少し離れて立っていた私が声をあげてしまい、みんなの注目を集めた。

「それで、断ったのか?」
「え、ええ」
副社長の言葉で、みんなの視線が戻って行く。

それにしても酷い話だ。
仕事にかこつけて異性を誘うなんて、完全にハラスメント。
断って当然、応じる必要なんてない。

「ただ単に飲みに誘っただけではないのか?」
「違います。『その日はホテルのスイートをとってあるから一緒に飲みましょう』って誘われたんです。『僕は妻帯者でして・・・』と言いましたが、『黙っていればわからないでしょう」と言われたんです」

なるほど何かの誤解ってことではないらしい。
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