暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
トントン。
「すみません、お待たせ」
そこまで言って言葉が止まった。

副社長室の中には二人の人物。
一人は部屋の主である創介副社長。
何しろこの会社は一条姓の人が多いから内部では時々そう呼ぶ。
そしてもう一人が、五〇歳過ぎに見える細身の女性。
どこかで見た顔なんだけれど・・・思い出せない。

「随分生意気ね」
憎々しげに口にする女性に、
「すみません」
絶対に悪いとは思っていないだろうふてぶてしい態度。

「今度新しく建てるホテルの工事からうちを外すってどういうことなの」
「それは入札の結果、他社の条件が良かっただけで」
「それがおかしいの。私は一条本家の娘よ。よその会社なんて入れずにうちに受注すればいいじゃないのっ」
キーンと響くような高音で叫ぶ女性。

ああ、思い出した。
この人は龍ヶ崎華子さん。
龍ヶ崎建設の社長夫人で、創介副社長の亡くなったお父様の妹にあたる方。
もちろんお目にかかるのは初めてだけれど、一条コンツェルンの社外取締役として社内誌でお顔を拝見したことがある。
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