暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「俺はもう少し挨拶をして回るから、君は休んでいたらいい」
「はい」

私のことを気遣ってだろうか、それとも一緒にいることが面倒なのか、休んで来いと言ってもらった私は素直に副社長のもとを離れた。


会場の一角にはたくさんの料理が並んでいる。
もちろんこんな席でモリモリ食べる人はいないけれど、少しでも美味しいものをいただこうと私もお料理に向かった。

「うわ、美味しそう」

欲張りに見えないように、フルーツとお肉とエビとカニをできるだけきれいに盛り付けて私は壁際に置かれた椅子に向かった。
そこには小さなテーブルもあり座って食事もできるようになっている。

「いただきます」
小さな声で囁いてからお料理を口に運ぶ。

ううん、美味しい。
手が込んでいて何がどう美味しいのか表現できないけれど、すべてが美味しい。
こんなおいしいものを食べると、美愛にも食べさせたいなと思ってしまう。
随分貧乏性だけれど、私だけがいい思いをしているようで申し訳ない。

「一条副社長」

ん?
気にする必要はないと思っていても、副社長を呼ぶ声は無意識に耳が拾ってしまうらしい。
見ると、数メートル先で来客に声をかけられた副社長が、にこやかに挨拶を交わしている。

フーン、あんな顔もできるのね。
いつも眉間にしわを寄せた不機嫌そうな表情が多いから意外な気がするな。
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