暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「あの時の傷はまだ残はまだ残っているんだね」
「ええ」

申し訳なさそうな顔をする圭史先輩につられて、私も自分のふくらはぎを見た。
ストッキングを履けばほとんど気にならないくらい薄い傷跡は最近では気にすることもなくなったけれど、やはりあの時の記憶を思い出すと怖くなる。
子供心にこのまま誰も来てくれなくてここで死んでしまうんだろうかと感じた恐怖は消えることがない。
私はずっと忘れていたのに、圭史先輩は覚えていてくれたんだ。

「スイミングクラブでもこの傷跡を見てすぐに気づいてくれましたものね」
「ああ、そうだったね」

そうして声をかけてもらったからこそ、私は自分を助けてくれたのが圭史先輩だとわかった。そうでなければ、気づかないまま今日まで来たと思う。
そういう意味でスイミングクラブでの再会は、私にとって運命だった。

「小さい頃は『圭史君は望愛の王子様だよ』なんて言っていたのに、今は顔を見ても思い出さないなんてひどいな」
ちょっとだけしんみりしてしまった私に、圭史先輩が笑いかけてくれる。

「すみません」

確かに、子供の頃はいつも圭史先輩を追いかけていた。
小学生の頃は「望愛の王子様だよ」なんて恥ずかしげもなく言っていた。
うわー、懐かしいな。
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