暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る～花嫁候補のようですが、謹んでお断りします～

それからの数秒間、私の中で何が起きたのかの記憶はない。
気が付いたら私の体は床に倒れていて、全身が冷たかった。

「大丈夫ですか？」
頭上から降ってきた声。

「え、ええ。大丈夫です」
とは言ったものの、右足に走る鈍い痛み。

「すみません、私のせいで」
申し訳なさそうに私を見る女性。

そうか、倒れていく氷と女性の悲鳴を聞いて私は飛び出したんだ。
どうやら間一髪のところで女性を突き飛ばし、自分が氷の下敷きになったてことらしい。

「立てますか？」
「ええ」

走ってきたホテルのスタッフらしき人に尋ねられ、私はゆっくりと体を起こす。
強く痛むのは右足首だけで、後は打ち身程度だろう。
どこからも出血している様子はないし、問題はないように思う。
ただ、問題は濡れてしまった服。
一応ファッションブランドのパーティーということで桃ちゃんから借りてきた新作ワンピースだったのに、ボロボロになってしまった。
困ったな、これでは返すことはできない。

「バカッ、何をやっているんだ」
色々と考えを巡らせていたのに、怒鳴るように浴びせられた魔王の声。

私はこの一言で現実に引き戻された。