暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「着替えはすぐに用意させるから、まずは風呂だ」
ホテルの部屋に入り、俺はすっかり冷たくなった体を下ろした。

「・・・ありがとうございます」

もしかしたら抵抗するのかなと思ったが、素直に礼を言う。
さすがにこのままでは帰れないと気付いたようだな。

「時間を気にすることはないから、しっかり温まってこい」
「はい」
「随分しおらしいな。もしかして体調が悪いのか?」
いつも元気な奴が静かだと不安になる。

「大丈夫です。ただ」
「ただ?」
一体何を言い出すのだろうと、俺は坂本を見つめた。

「私、秘書なのに。返って足を引っ張ってしまって・・・」

何だそんな事か。
「気にすることはない。あくまでもアクシデントだ。それにパーティー自体もほぼ終わりの時間だった。主催者も迷惑をかけたって謝っていたぞ」

あのままだったら別の女性に氷が直撃していて、もっと大きなケガになっていただろう。
俺にとっては不本意ではあるが、彼女が飛び出したことで女性を救ったことは間違いない。

「でも、副社長のスーツも濡れてしまって・・・」
「そんなことは気にするな。いいから温まって来い。何なら浴室まで連れて行こうか?」

わざとらしく近づき背中に手を回そうとすると、

「大丈夫です。自分で行きます」
逃げるように蹴けだして行った。
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