暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
彼女にケガをさせたなんてことがじいさんの耳に入ればまたやかましく言われるかな。
ただでさえ知り合いのお嬢さんで、「とにかくいい子だからお前の秘書にしなさい」と強引に押し付けてきたくらいだ、黙ってはいないのかもしれない。
こう言っては何だが、うちのじいさんは感情に流されたり身内びいきをする人間ではない。
けっこうな歳の癖にいつもビジネスライクで、常に会社の利益が一番。
子供の頃は損得しか考えられない冷血漢なのだと本気で思っていた。
さすがに世の中がわかるようになった今ではじいさんの言うことも理解できるようにはなったが、それでも自分が損になることは絶対にしないい人だ。
そのじいさんがわざわざ俺の秘書にと言うくらいだから、よほどの名家の令嬢か、大物政治家の娘と思ったのに、現れたのが彼女で驚いた。
家柄や、実家の影響力でないのなら彼女自身に特別な才能でもあるのかと思ったが、それもなくてごくごく普通の女性。彼女が務めるようになってしばらくはじいさんの意図がつかめずに不思議でしょうがなかった。

「すみません、お風呂ありがとうございました」
「いや、ちゃんと温ま」
俺の言葉はそこで止まった。

現れたのはバスローブ姿の彼女。
確かに、今は濡れてしまった服以外に着替えるものはないのだから、隼人が持ってくるのを待つしかないのだが・・・

トントン。
ドアをノックする音。

どうやら隼人が来たらしい。

「着替えが届いたようだから、あっちで待っていてくれ」
俺は彼女の背中を押して、もう一度バスルームへと戻してしまった。
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