暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
彼女が車を降り、つられて俺も一旦外へと出た。

「あの、副社長」
「何だ?」

このまま歩いて行くのだろうと思っていたのに、まっすぐに俺を見る強い眼差し。
どうやら何か言いたいことがあるようだと、俺も彼女の方に向き直った。

「今日は色々とありがとうございました」

姿勢を正した彼女が、きちんと頭を下げる。

「何だよ、いきなり」
あれだけ抵抗していたくせに、随分しおらしいじゃないか。

「ケガは自分が招いたものですから自業自得だと思っています。でも、そのせいで副社長にご迷惑をかけたことが申し訳なくて・・・」

その辺の女がこんなセリフを言えば「何の演出だ?」と一笑に付しただろうし、心のどこかでしめしめと思っているのだと勘ぐったはずだ。
でも彼女が、坂本望愛がそんな人間でないと俺は知っている。

「お前は何で、いつも自分のことよりも人のことを心配するんだ?もっと自分を優先しろ」

こんな時くらい優しい言葉を掛けてやるべきだとわかっていても、俺の口からは意地悪しか出てこない。
つくづく嫌な性格だ。

「それができれば、もう少しかわいい女子になれたのかもしれませんね」
「何だよそれ」

どことなく含みを感じる言い方に、寂しい影を感じた。
きっとまだ俺の知らない坂本望愛がいて、一人で苦しんでいる。
そう思ったら言いようのない愛おしさに襲われた。
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