暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
「コーヒーをどうぞ」

腕を組み仏頂面のまま窓の外を見る副社長に、私はコーヒーと小さな小皿を差し出した。

「これは?」
「チョコです。お好きですよね」

普段甘いものを好まない副社長もチョコだけは好きで、好みの銘柄も決まっている。
さすがに毎日出すことはしないけれど、時々購入してこんな時のためにストックしていた。

「まるで子供の機嫌でも取るみたいだな」
ムッとした表情のまま、ギロリと私を見る副社長。

どうやらチョコで機嫌を取ろうしているのはバレバレのようだが、今の私は睨まれたくらいで怯んだりしない。

「お気に召さないようでしたら、下げましょうか?」
「いや、いい。せっかくだから頂くよ」

でしょう。だって大好きなチョコだもの。
それも海外メーカーの手作りチョコで直営の店舗に出向いてしか買えない品は、そう簡単に手に入らない。
わざわざ私が店に出向いて買ってきたんだから。

「機嫌が悪くても平気で寄ってくるのは隼人とお前だけだな」
「そうですかね」

私だって平気なわけじゃない。
それでも、創介副社長が悪い人ではないと知ってしまったから。

「トラブルが起きないよう万全の対策をとるのが、俺たちの仕事で責任でもある。圭史はそこが甘いんだ」

圭史先輩のことをそんな風に言うなんて珍しい。
それだけ、今回のことに憤っているってことだろう。

「でも、先輩もきっと苦しんでいるでしょうから、だから」
「そんなことわかっているんだっ」

バンッ。
拳てデスクを叩く音が響いた。
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