薙野清香の【平安・現世】回顧録
 温かいオレンジ色が視界に優しい。薄いガラスを挟んでみる空と、空色に染まる遊園地はとても美しかった。まるで現実から離れたかのような感覚。ゆっくりと動くゴンドラの中、清香は静かにシャッターを切った。


「綺麗だな」


 向かいの席から聞こえる抑揚のない声に、清香は不機嫌に目を細めた。


「あんたに情緒を理解する心があるなんてね」


 明らかな嫌味を吐いたというのに、崇臣は穏やかな表情を浮かべるだけだ。小さくため息を吐きながら、清香はチラリと上を見上げた。前のゴンドラには芹香と東條が乗り込んでいる。


「おまえのことも綺麗だと思うぞ」

「あーーはいはい、そういうの良いから」


 清香はそう言って、崇臣を睨みつけた。最近この男のせいで騒いでばかりの清香の心臓だが、今はひどく落ち着いていた。


「さっきからずっと思ってたんだけど、崇臣……あんた一体どういうつもり?」

「……どういうつもりとは、どういうことだ?」


 清香の問いに答えながら、崇臣は首を傾げる。腹立たしさに清香の表情は曇った。


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