薙野清香の【平安・現世】回顧録
(私の……幸せ?)


 芹香の言葉の意味を、清香は未だうまく理解できていない。
 それから芹香は、清香の手をそっと握った。清香の心臓がトクンと高鳴る。ドギマギと戸惑いの表情を浮かべる清香を尻目に、芹香は穏やかに微笑みながら、静かに目を瞑った。


「本当に、昔からお姉ちゃんは私のことばかりで……あまり人と関わろうとしなかったでしょ?私、すごく心配してたの。友達はいるけど、一人でも平気って感じで。皆と一線を引いてて。そのお姉ちゃんが連絡先を交換するなんてすごいことだと思う。それに、崇臣さんみたいに、対等に話ができる男の子って、今までお姉ちゃんの周りにいなかったから」


 どうやら、本気で清香のことを心配していたのだろう。芹香の手は小刻みに震えていた。


(まさか、芹香にそんな心配させてたなんて)


 清香は芹香がいればそれで良かった。他に何もいらなかった。だから、必要以上に人と接しようと思わなかったし、寂しいことも、自分自身の心配をすることもない。けれど、それが何よりも大切な人を悲しませているのならば、話は別だ。


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