薙野清香の【平安・現世】回顧録
***


「聞いたか?」

 それから数日経ったある日のこと。そう尋ねてきたのは崇臣だ。
 清香の部屋に滞在するのにもすっかり慣れたのか、足を崩して寛いでいる。


「……何の話?」


 本当は大体予想がついていたが、清香は知らぬふりをした。モニターを見つめながら、チラリと崇臣を盗み見る。すると崇臣は、憮然とした表情を浮かべて立ち上がった。


「主たちが今度、遊園地に出掛けるらしい」

(やっぱりその話か)


 清香は片方の眉を上げながら、小さくため息を吐いた。

 あの後の芹香の行動は早かった。早速芹香は、その日のうちに東條へと相談を持ち掛けた。
 初め芹香は、清香と崇臣の二人きりでのデートを画策していたようだが、どうやら東條から、それは困難だと諭されたらしい。


(崇臣が東條さまのこと以外で積極的に動くわけないもの)


 清香としては初めから分かり切っていたことだが、芹香はあまり崇臣を知らない。そんなわけで、崇臣のことをよく知る東條が、代わりに策を練ったのだという。


「俺たちも付いてくるように、とのことだ」

「……へーー、そうなんだ」


 まるで、初めて聞いたかのような声を上げながら、清香は小さく舌を出した。


(そんなの、とっくの昔に知ってるわよ)


 崇臣は、主である東條がひとこと『ダブルデートをしたいから付いてこい』と言えば、何を置いても従うのである。東條にとっては今回の作戦は、赤子の手をひねるよりも簡単だったに違いない。


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