ファンタジック・バレンタイン
モダンな洋風邸宅の一軒家の門の前で、ナコちゃんは立ち止まった。



門の中には男性が乗るアイアンブルーのクロスバイクと、黄色いたんぽぽ色の小さな自転車が置いてあった。



あの黄色い自転車が多分ナコちゃんのものなのだろう。



でも大きな傷がついている。



「ナコちゃん。これ。」



そう言って私は今度こそナコちゃんにネコのチョコレートドーナツケーキが入った箱を手渡そうとした。



けれどナコちゃんは小さく首を横に振って、その箱を私の手に戻した。



「これはななちゃんが持ってて。」



「え?」



「もうすぐ私の大好きだったお兄ちゃんがこの家に帰ってくるから、この箱をななちゃんからお兄ちゃんへ手渡して。」



「・・・お兄ちゃん?」



ナコちゃんがチョコレートをあげたい相手ってお兄さんだったの?



でもだったら家で渡せばいいんじゃ・・・。



「そしてお兄ちゃんにこう伝えて。ナコはミミと一緒に幸せに暮らしているからって。だからお兄ちゃん、もう泣かないでって。そう伝えて。約束だよ。」



「・・・・・・。」



「ナコ、ずっとお兄ちゃんのこと見てた。優しいお兄ちゃんがいつまでも悲しそうで、よく泣いていて、とても心配だったから。そしたら私と同じようにお兄ちゃんを見てる女の子がいたんだよ。それがななちゃん。ななちゃんならお兄ちゃんを幸せにしてくれると思った。だからこれをななちゃんから渡してもらいたかったの。」



「ナコちゃん?」



「ななちゃんに会えてよかった。お兄ちゃんによろしくね。じゃあね。バイバイ。」



そう言い残してナコちゃんは、私の目の前からすぅっと消えた。


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