ファンタジック・バレンタイン
「あなた、どこの子?もう暗いし寒いし、早くお家へ帰ったほうがいいよ?」



「う~ん。帰りたいんだけど、ひとつだけやらなきゃならないことがあってね。」



「やらなきゃならないこと?」



「うん。そう。」



女の子はそう言うと、私の目を真剣にみつめた。



「ななちゃんにそれ、手伝ってもらいたいんだ。」



「え・・・?なんで私の名前、ななって・・・?」



「うん。まあ、それは詳しくは言えないんだけど、ななちゃんのことは、よく知ってるんだよね、私。」



「え?え?。」



「ななちゃんって、数学の小テストでわからない問題に突き当たると、テスト用紙の裏に動物のイラスト描いて現実逃避してるよね?あれ止めた方がいいよ?あとで綺麗に消したつもりでも先生気付いているから。」



「え?あれ、バレてるの・・・?」



「お弁当のおかずは、一番苦手なトマトから食べるよね。」



「そう。嫌いな食べ物は早くなくなって欲しいから。」



「好きな男子の背中が見えると、手を組んでなにか念を送ってるし。」



「うん。私のパワーを彼に・・・って、だからなんでそんなことまで知ってるの~!」



「まあ、そんなことはどうでもいいからさ。手伝ってくれるの?くれないの?」



女の子の鬼気迫る言葉にうろたえながらも、私はブランコから立ち上がった。



「いいよ。手伝う。どうせ、この後なにも用事なんてないし。」



もし高梨君への告白が成功していれば、今頃一緒にどこかでお茶でもしていたかもしれない。



でももう高梨君の隣には他の女の子がいるのだ。

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