まさか推しの作家が幼馴染だったなんて ~ハイスぺオタク男子の甘い溺愛~
◆第二話 冬コミ準備
〇翔太の部屋・休日(昼)
翔太が冬コミに間に合わないと慌てていた。
翔太「新刊なしにしよう…既刊だけで良いでしょう。もう…」
徹夜のせいで翔太は死んだ目をしている。
翔太「試験勉強もあるんだから学生には冬コミはきついよ」
美羽「何を言うの!? エロサングラス先生の新刊を待つ人達がこんなにいるのよ!? 彼らの期待を裏切るわけにはいかないわ!」
そう言ってエロサングラスのTwitterのフォロワーの数(3万人)を見せつける美羽。当人の翔太より冬コミに熱を入れていた。
美羽「エロサングラス先生の新刊…! 今回のネームも素晴らしかったわ…! これを世に出さないでどうするの!?」
そう言ってキラキラした目で翔太の手をつかむ美羽。
翔太「う…」
翔太は少し口ごもった後、赤い顔でボソボソと言う。
翔太「…じ、じゃあ、入稿間に合って冬コミ出られたらご褒美くれる?」
美羽「私にできることなら!」
翔太「なら頑張る…でも間に合うかな…」
美羽「トーンとかベタ塗りとか手伝えるものは手伝うから新刊を諦めないで!」
翔太「ほ…本当に手伝ってくれるの?」
美羽「勿論!」
翔太「じ、じゃあ今のバイト辞めて、今後もそばにいてくれる? 今のバイト代より良い給料払うから」
翔太はニチャアとオタク笑いをする。
美羽「も、勿論…?」
美羽(いや、これはむしろラッキー?)
憧れの先生のアシスタントができるし、カフェのバイトはどうしても冬コミの日と仕事が被っていて休みにくかったのだ。
翔太がバイト代を出してくれるならとても助かるし、推しの役に立てるなら本望だった。
美羽(そうよ! そもそもバイトしているのはエロサングラスの本を買うためなんだし!)
翔太「ほ…報酬に見本誌もあげる。それなら良いでしょ?」
美羽「やります!」
仕事の報酬としてバイト代とは別に一冊くれると言うなら美羽としても大歓迎だ。
翔太「美羽ちゃんが外でバイトしてたら他の男に絡まれちゃうかもしれないしね」
翔太はボソリと言った。
美羽「え? 今なんて?」
翔太「な…何でもない!」
美羽「翔太がアシスタントで雇ってくれるなら大歓迎だよ! 完成した本も1部…いや、3部ちょうだいね!保存用と閲覧用と布教用で!」
翔太「…ふ、布教用? 分かった」
美羽「うっ…」
美羽がそばにいてくれると知って嬉しそうにしている翔太を見て、美羽は顔を赤らめる。
美羽(最近は翔太の色気に翻弄されてばかりだ)
手伝うと言ったからには頑張ろうと気合を入れる美羽。
〇美羽の部屋・平日(夜)
翔太が経費として買い与えてくれたペンタブと漫画ソフトを使ってPCで作業する美羽。
美羽(ど、どうしてこんなやつばかり…!)
翔太から指示されるのは男性器の修正ばかりだった。
無修正のそれを販売可能にするために謎に光らせたり、ビュッビュッと卑猥な効果音をつける。
美羽(うかつだった…!)
美羽は真っ赤になって呻きながら作業する。
翔太が描いているのはR18のBL本なのだ。しかも少女漫画のようにキラキラと色々誤魔化してあったり、寝て起きたら事が終わっていたというような朝チュンではない。ページの半分以上がセックスシーンである。むしろそれが売りと言っても良い。
美羽(ひゃぁぁ…)
翔太『み、美羽ちゃん』
美羽「っ、は、はい!」
翔太「18ページ右下のコマに汁を足して」
美羽「は、はい…」
美羽は半泣きで作業する。
今まで気にせずR18BL本を読んでいたくせに何を言うのという感じであるが、異性の幼馴染にエロシーンの修正指示をもらうというなかなかない状況に美羽はうろたえた。
しかし翔太の方は仕事と割り切っているのか照れもせずボイスで指示を飛ばしてくるから困る。
美羽(しかも推しの声が直接耳に……っ)
翔太の低音ボイスに悶絶する美羽。
翔太『美羽ちゃん?』
美羽「は、はい! 先生もう何なりとお申し付けください!」
翔太『なぜ敬語…?』
美羽「い、いや…だってお仕事だし」
翔太『美羽ちゃんは気にしなくて良いよ。それより24ページ目のユウの表情で悩んでて。もう少し辛そうな表情にするべきか、いっそ涙を見せるか…ど、どう思う?』
それは恋する〇〇が攻めのことを思って身を引こうとする感動シーンだ。
美羽は悩む。
美羽「そうね…〇〇だったらきっと…」
しかし脳裏に浮かんでくるのは翔太だったらどんな顔をするかという空想ばかりだ。
美羽は頭を振って変な想像を払おうとする。
美羽(今までより推しキャラを上手く想像できなくなってる?)
首を傾げる美羽に、翔太が聞く。
翔太「まだ俺もキャラを把握しきれてないのかも…。美羽ちゃんはユウのどこが好きになったの?」
美羽「どこがってそれは…」
ユウは重たい黒髪の地味なオタクキャラなのだが、大好きなアイススケートのことになるとキャラが変貌してイケメンに変わるのだ。そのギャップがたまらない。
美羽(そう、私が好きなのはユウのギャップで…そんなところに惹かれる攻め役のカイの気持ちにも共感していた)
美羽の脳裏で、眼鏡を外して顔をあらわにした翔太の容貌と重なる。
美羽(え? もしかして私がこれまで好きになったキャラって、ことごとくギャップのあるキャラだったような…)
ユウの他に好きなキャラを想像した。
普段は糸目なのに試合になると開眼するテニス部の先輩やら、普段はヘタレなのに眠ると強くなる鬼を倒す少年などだ。
美羽(まさか私…翔太に似てるから好きになっていたの!?)
それに気付いて、赤面して机に倒れ込む美羽。
翔太『み、美羽ちゃん!? だ…大丈夫!? すごい音がしたけど!』
翔太がイヤホン越しに声をかけてくる。
美羽「…大丈夫じゃないかも」
真っ赤な顔で美羽はつぶやいた。おでこは赤くなっている。
美羽(最初から翔太にベタ惚れじゃん…)
美羽ももう認めざるを得なかった。
先日腕にサインされてから彼へのドキドキが止まらないのだ。てっきり、憧れの先生と知ったからだと思っていたけれど。
これは翔太が憧れの先生だから好きなのではなく、幼い頃から彼に惚れていたことだ。
翔太「美羽ちゃん!?」
血相を変えた翔太が部屋に飛び込んでくるまで、美羽は机に突っ伏していた。