捨てられた聖女と一途な騎士〜元婚約者に浮気された挙句殺されてタイムリープしたので、今度は専属騎士と幸せになります!でも彼が妾出の王太子だなんて聞いてません〜【Webtoonコミカライズ化】
三、六年前に戻る
まるで部屋ごと揺れたかのような大きな衝撃がして、ローズは慌ててその場に踏みとどまる。
「な、なに……?」
(いったい何が起こったの? 急にブレスレットが光って……)
状況がまったく理解できない。先ほどまで毒を飲んで瀕死だったはずなのに、今は無傷で立っている。
それに周囲にルシアとゴードンの姿もなくなっていた。部屋の隅にディランが立っていたが。
「ディラン!」
彼の元へ向かおうとしたが、心配そうに駆け寄ってきた神殿女官長キンバリーに阻まれる。母親のような年齢のふっくらした女性だ。
「だっ大丈夫ですか、聖女様!? 先ほど急によろめかれていましたが……」
「え、ええ。大丈夫よ……って、キンバリー!? どうしてここにいるの!?」
先ほどまで人払いしていたし、何よりキンバリーは二年ほど前に神殿から去った人物だった。
彼女はローズが神殿にきた時から優しく、時に厳しく母親のように導いてくれた女性だ。それなのに聖女候補だったルシアの私物を盗んだということで神殿から追放されてしまった。
ローズが何か誤解があるのでは、と主張して再調査を訴えても、ルシアと他の女官達の証言で、どうにもできなかったのだ。
(キンバリーがそんなことするはずないって信じていたわ。また会いたいって思っていたけれど……でも、どうしてここに……?)
女官長キンバリーは不思議そうに首を傾げる。
「おかしなことをおっしゃいますね。私はもう二十年間、この神殿で働いていますよ」
「え? 二十年……?」
何かおかしい。
(いや、それよりも今は……)
ローズはディランの元に駆け寄る。
「ディラン……ッ! 大丈夫!?」
先ほどまで彼は大変な目にあっていたのだ。それを思い出してローズは血の気が引く思いがした。
しかしディランは壁際で己の両手をみおろして、呆然と立ち尽くしている。
「ロ、ローズ様……? ご無事ですか!?」
思わずといったように両肩をつかまれる。
「ええ、私は大丈夫。どうしてなのか分からないけれど……ディランも無事なの? 怪我は?」
「……ええ、俺も無傷です」
お互いに無傷なことに安心したが……。
困惑は深まるばかりだ。
(いったい何が起こったの……?)
「あ、あの……? 聖女様? お二人とも一体どうなさったのです?」
困惑した様子で、女官長キンバリーが問いかけてくる。
しかしローズもいったい何が起こったのか分からないのだ。うまく答えられずに「えっと……」と視線を泳がす。
「良かった。ブレスレットも無事だったんですね」
そうディランに言われて、ようやく左手首にいつものブレスレットを身につけていることに気付いた。千切れた痕跡もない。
「そうみたい。いったい何が起こったのかしら……?」
千切れたはずのブレスレットは元通りになっているし、いないはずのキンバリーがここにいる。
ローズは頭を押さえた。まだ何が起こったのか理解できず当惑している。
「……ディランはあの時のことを覚えているわよね?」
ブレスレットのことを指摘するあたり、どうやらディランもローズと同じようにあの時の記憶がある様子だった。
「……ええ。ローズ様があの男から婚約破棄されて……その後、あの空間で俺達の身に何かが起きた……ということでしょうね」
「ゴードン様とルシアは、どこに行ってしまったのかしら?」
顎に手を当ててローズは困惑気味につぶやいた。
女官長が小首を傾げる。
「えっと……ゴードン様というのは聖女様のご婚約者様ですよね? あの方の所在は存じ上げませんが、ルシアなら先ほど庭園の水やりを命じたので、そちらに行っているかと思いますよ」
「み、水やり……?」
ローズは思わず聞き返してしまった。
ルシアは聖女になったのだから、今はそんな下働きのような仕事はしていないはずだ。女官長に命令されるような立場ではないはずだが……。
(……いえ、そういえば昔は──私がルシアを次期聖女として指名する二年以上前までは、彼女も普通の神殿女官のように働いていたけれど……。って、ちょっと待って)
ありえないような想像をしてしまった。
──もしかしたら、自分達は過去に戻っているのではないかと。
ディランに視線を送ると、彼も同じことを考えたらしい。強くうなずく。
「……もしかしたら、ご想像なさっている通りかもしれません。俺も昔持っていた剣を今、腰につけているので」
「嘘でしょ……」
ローズは焦りに駆られて、女官長キンバリーに尋ねた。
「ねえ、今は聖歴何年の何月何日かしら?」
「えっと……聖歴八九五年、七の月の二十五でございます。お二人とも、どうなさったのです?」
ローズとディランのただならぬ雰囲気に圧されたのか、女官長キンバリーは困惑している。
「聖歴八九五年、七の月の二十五って……」
(六年も過去だわ……)
二十四歳だったローズとディランは、十八歳の頃に戻っていた。
先ほどは動揺して気付けなかったが、よく見ればディランもキンバリーも少し若々しく見える。
「ローズ様、人払いをしていただいてもよろしいでしょうか?」
見た目年齢にそぐわない落ち着きを見せるディランにそう言われて、ローズは「そうね」と首を縦に振った。
自分達の身に起こっていることが普通ではない。とりあえず、当事者のローズとディランで今後のことを相談するべきだろう。
「まだお互い動揺しているから、お茶でも飲んで少し落ち着きましょう。キンバリー、お茶を用意してくれるかしら?」
「な、なに……?」
(いったい何が起こったの? 急にブレスレットが光って……)
状況がまったく理解できない。先ほどまで毒を飲んで瀕死だったはずなのに、今は無傷で立っている。
それに周囲にルシアとゴードンの姿もなくなっていた。部屋の隅にディランが立っていたが。
「ディラン!」
彼の元へ向かおうとしたが、心配そうに駆け寄ってきた神殿女官長キンバリーに阻まれる。母親のような年齢のふっくらした女性だ。
「だっ大丈夫ですか、聖女様!? 先ほど急によろめかれていましたが……」
「え、ええ。大丈夫よ……って、キンバリー!? どうしてここにいるの!?」
先ほどまで人払いしていたし、何よりキンバリーは二年ほど前に神殿から去った人物だった。
彼女はローズが神殿にきた時から優しく、時に厳しく母親のように導いてくれた女性だ。それなのに聖女候補だったルシアの私物を盗んだということで神殿から追放されてしまった。
ローズが何か誤解があるのでは、と主張して再調査を訴えても、ルシアと他の女官達の証言で、どうにもできなかったのだ。
(キンバリーがそんなことするはずないって信じていたわ。また会いたいって思っていたけれど……でも、どうしてここに……?)
女官長キンバリーは不思議そうに首を傾げる。
「おかしなことをおっしゃいますね。私はもう二十年間、この神殿で働いていますよ」
「え? 二十年……?」
何かおかしい。
(いや、それよりも今は……)
ローズはディランの元に駆け寄る。
「ディラン……ッ! 大丈夫!?」
先ほどまで彼は大変な目にあっていたのだ。それを思い出してローズは血の気が引く思いがした。
しかしディランは壁際で己の両手をみおろして、呆然と立ち尽くしている。
「ロ、ローズ様……? ご無事ですか!?」
思わずといったように両肩をつかまれる。
「ええ、私は大丈夫。どうしてなのか分からないけれど……ディランも無事なの? 怪我は?」
「……ええ、俺も無傷です」
お互いに無傷なことに安心したが……。
困惑は深まるばかりだ。
(いったい何が起こったの……?)
「あ、あの……? 聖女様? お二人とも一体どうなさったのです?」
困惑した様子で、女官長キンバリーが問いかけてくる。
しかしローズもいったい何が起こったのか分からないのだ。うまく答えられずに「えっと……」と視線を泳がす。
「良かった。ブレスレットも無事だったんですね」
そうディランに言われて、ようやく左手首にいつものブレスレットを身につけていることに気付いた。千切れた痕跡もない。
「そうみたい。いったい何が起こったのかしら……?」
千切れたはずのブレスレットは元通りになっているし、いないはずのキンバリーがここにいる。
ローズは頭を押さえた。まだ何が起こったのか理解できず当惑している。
「……ディランはあの時のことを覚えているわよね?」
ブレスレットのことを指摘するあたり、どうやらディランもローズと同じようにあの時の記憶がある様子だった。
「……ええ。ローズ様があの男から婚約破棄されて……その後、あの空間で俺達の身に何かが起きた……ということでしょうね」
「ゴードン様とルシアは、どこに行ってしまったのかしら?」
顎に手を当ててローズは困惑気味につぶやいた。
女官長が小首を傾げる。
「えっと……ゴードン様というのは聖女様のご婚約者様ですよね? あの方の所在は存じ上げませんが、ルシアなら先ほど庭園の水やりを命じたので、そちらに行っているかと思いますよ」
「み、水やり……?」
ローズは思わず聞き返してしまった。
ルシアは聖女になったのだから、今はそんな下働きのような仕事はしていないはずだ。女官長に命令されるような立場ではないはずだが……。
(……いえ、そういえば昔は──私がルシアを次期聖女として指名する二年以上前までは、彼女も普通の神殿女官のように働いていたけれど……。って、ちょっと待って)
ありえないような想像をしてしまった。
──もしかしたら、自分達は過去に戻っているのではないかと。
ディランに視線を送ると、彼も同じことを考えたらしい。強くうなずく。
「……もしかしたら、ご想像なさっている通りかもしれません。俺も昔持っていた剣を今、腰につけているので」
「嘘でしょ……」
ローズは焦りに駆られて、女官長キンバリーに尋ねた。
「ねえ、今は聖歴何年の何月何日かしら?」
「えっと……聖歴八九五年、七の月の二十五でございます。お二人とも、どうなさったのです?」
ローズとディランのただならぬ雰囲気に圧されたのか、女官長キンバリーは困惑している。
「聖歴八九五年、七の月の二十五って……」
(六年も過去だわ……)
二十四歳だったローズとディランは、十八歳の頃に戻っていた。
先ほどは動揺して気付けなかったが、よく見ればディランもキンバリーも少し若々しく見える。
「ローズ様、人払いをしていただいてもよろしいでしょうか?」
見た目年齢にそぐわない落ち着きを見せるディランにそう言われて、ローズは「そうね」と首を縦に振った。
自分達の身に起こっていることが普通ではない。とりあえず、当事者のローズとディランで今後のことを相談するべきだろう。
「まだお互い動揺しているから、お茶でも飲んで少し落ち着きましょう。キンバリー、お茶を用意してくれるかしら?」