鬼上司は秘密の許嫁?!溺愛されるなんて聞いてません
「うわっ!」

箸の先についていたラーメンの汁がこっちへ飛んできて思わず避けた…つもりだったけど、それも無駄な動きだった。

ついちゃった…泣きたい。

私が服についた汚れでショボッとしていると、隣の石原さんはというと「飛ばさないでくださいよ!」と眉をつり上げていた。

「あ、悪《わり》ぃ」と適当に謝った松山さんを石原さんがギロッと睨み「人に箸先向けたらダメって教わりませんでした?」と低い声を出した。
石原さんは美人なだけに迫力凄すぎて怖い――が、頼もしい。

もっと言っちゃってください、石原さん!

服の怨みだ!と、密かに拳をグーにして応援する。
けれど松山さんはというと、それを意に介さず「ゴメンって~。気をつけるから許して」とウィンクしながら片手で謝った。

ゴメンの気持ち、軽い。

「ウィンク要りません」

石原さん厳しい。

「はぁっ、とにかく明日を思うと胃が痛いぜ。やだやだ」

早々に話を切り替えた松山さんは、沈痛な面持ちで再びズルズルと麺を啜った。

その様子に前田さんと石原さんも小さく溜め息を吐く。

うっ、空気重い…。

どうしてこうも皆して気が重くなっているのかというと明日、本社の人間がここへやって来ることになったから。
それも決まったのは一昨日の定時の十七時。
皆が『やれやれ帰るか~』とデスク回りを片付けていた時だった。
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