ひと駅分の彼氏
☆☆☆

「ただいまぁ」


リビングにいる母親に声をかけて自室へ向かうと、すぐに机に座った。


机の上には単語帳や辞書が乱雑に散らばっている。


それらが見えているのに見えないふりをして、私は引き出しを開けた。


中から1枚の写真を取り出して辞書の上に置く。


それは私と真琴が写っている写真だった。


去年の文化祭で演劇をしたとき、2人で大道具係をやった。


地味なわりに大変な仕事で、2人共毎日汗だくになりながらダンボールやベニヤ板と格闘した。


そして文化祭が終わった後、記念にと先生が撮ってくれたのだ。


2人の背後には頑張って作成した大道具たちが並んでいる。


背景に使ったダンボールの木々や、ふわふわの綿でできた雲。


手作り感のあるそれはなかなかの出来栄えで、私も真琴も気に入っていた。


それらは今でも学校の倉庫に大切に保管されているはずだ。


ぼんやりと当時のことを思い出してるとノック音が部屋に響いた。


ハッとして顔を向けた時、ドアの前に母親が立っていた。


「あ、お母さん……」
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