ひと駅分の彼氏
☆☆☆

翌日、私は単語帳を握りしめて電車に揺られていた。


少しでも勉強しておかないと後悔することになる。


そう思ってのことだったけれど、それを開く気にはなれずにギュッと手のひらで握りしめたままだった。


やがて電車は大きく揺れて次の駅で停車した。


私の体も乗客の体も大きくかしぐ。


ドアが開くと同時に隣のサラリーマンが立ち上がり、出口へと向かった。


私は見るともなしにその背中を見つめる。


紺色のスーツはホームに降り立つとすぐに見えなくなった。


みんな同じだ。


電車から出てホームに立つとどこに行ったのかわからなくなる。


私もきっと周りの人から見れば同じだった。


同じ制服を着た生徒たちに紛れ込んで、区別はつかなくなってしまう。


だけど、どうしてだろう。


この人だけはすぐに見つけることができてしまうのだ。
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