ひと駅分の彼氏
「やぁ、元気だったか?」


電車が動き出すと同時に隣に座った青いスニーカーにそう声を掛けられて、私は顔をあげた。


青いスニーカーの男性は他の誰かに話しかけているのだと思った。


乗客に知り合いでも見つけたのだろうと。


しかし彼はこちらへ向いていた。


そして彼の顔を、私はよく知っていた。


「え……」


思わぬ人物に電車内で会ったとき、どう反応していいのかわからない。


思わず大声を上げてしまいそうになっても、それをグッと押し込めて乗客の邪魔にならないようにする。


私は声を上げるタイミングを失ってただただ隣に座った彼を見つめた。


何度も瞬きをして相手の顔を確かめる。


目をこすり、夢や幻覚ではないかと確認する。


そうしていると、彼がプッと吹き出した。


「なにしてんの紗耶」


『紗耶』
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