ひと駅分の彼氏
広江紗耶（ﾋﾛｴ　ｻﾔ）それが私の名前だった。


彼はクスクス笑いながら私のことを見ている。


私は笑う前に胸にジワリと暖かなものが広がっていくのを感じていた。


『紗耶』


そう言って今目の前にいる彼に何度呼ばれただろうか。


２人で手を繋いで歩いているとき。


休日の公園で一緒にサンドイッチを食べたとき。


夕暮れ時の分かれ道で、キスをしたとき……。


あらゆる場面で彼は私を紗耶と呼んだ。


その声には深い愛情が込められていて、呼ばれる度に今見たいに胸の中が熱くなった。


「真琴？」


先山真琴（ｻｷﾔﾏ　ﾏｺﾄ）それが彼の名前だった。


真琴は少しクセの強い前髪をかきあげて微笑む。


そうやって前髪をうっとうしそうにかきあげるのは真琴のクセだった。


それなら短くカットすればいいのにと言っても、真琴は『短くすると余計にウネるんだよ』と、嫌そうな顔をして短くすることはなかった。


だけど、私はそんな真琴の前髪が好きだった。
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