ひと駅分の彼氏
それは閉じ込められた小さな春のように見えた。


真琴に近づいていくと、小瓶の中には小さく砕かれた白やピンクの貝殻が入れられていた。


「え、砕いて入れてるの!?」


貝殻を手にしては指先で粉々にしている様子に、私は目を見開いた。


「こうするとほら、キレイだろ?」


小瓶の中に粉状になった大小の貝殻が入っていて、揺らしてみると白色とピンク色が混ざり合い、その都度違う表情を見せてくれる。


これは他に2つとない景色だった。


「わぁ、キレイ!」


思わず声を上げてしまうくらいキレイだった。


真琴は嬉しそうに微笑んでその小瓶を私にくれた。


「いいの?」


「もちろん。それは俺が紗耶のために作ったんだ」


私が桜貝をよほど気に入ってしまったので、自分でプレゼントしたかったのだという。


「それなら、真琴にはこっちをあげる」


私は自分の持っていた小瓶を真琴に差し出した。


真琴はそれを受け取ろうかどうか一瞬悩んだ様子だったけれど、素直に受け取ってくれた。


粉になった貝殻も、そのままの形を残している貝も、どちらも素敵にキレイな春色をしていた。
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