君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
「ユーフォルビアには帰りたくないなぁ。」
そんなことを思いながら過ごしていると、
ふと馬車の向かう行く先が気になり始めた。

(ルイーザ様はこの馬車はユーフォルビアに向かうって言ってたけど、この馬車はどう考えても東に向かっているわ。)
地図上ではユーフォルビアはマグノリアの南に位置している。
グラディオーレンからラデスフローに向かうなら馬車は南に行かなければおかしい。
じゃあこの馬車は一体どこに向かっているというのか。
この馬車の行きつく先は皆目見当もつかないジゼルだが、
早く逃げ出さないとということだけは分かった。

出来るだけバレないように逃げ出すならやはり夕方がいいかもしれない。
(夜だと真っ暗で何も見えないし。)
この馬車は私の他に御者の男2人だけだ。
あまり真面目ではないのか、しょっちゅう馬車を停めて昼寝をしたり煙草を吸っている。
かといってジゼルの方は全く気にかけないので隙はいくらでもありそうだった。
丸腰で逃げるわけにはいかないと考えたジゼルは馬車の隅に転がっていたボロボロのナップザックに
水とパンを可能な限り詰めた。
粗末な馬車だったため左側の窓ガラスが割れていたので、
鋭利なガラスの破片を拾って、引きちぎったドレスの裾で包みナップザックに入れた。
(もしもの時の護身用よ。)
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