君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
日が西に傾きかけたころ、
ジゼルの乗った馬車は民家が数件立ち並ぶ小さな村のはずれで馬車を停めた。
「あー疲れた。腰がいてーや。夜に向けてひと眠りすっかー。」
「俺も横になりたいわ。」
男たちの会話からするにまたとないチャンスだ。
しばらくしていびきのような音が聞こえ始めたので、
ジゼルはナップザックを手にそっと馬車を降りた。
おそるおそる男たちを確認すると、のんきな顔で寝ている。
男たちに気づかれないように忍び足でその場を離れ、
馬車の姿が見えなくなった途端、一目散で走り始めた。

ハッ ハッ ハッ
今まで全速力で走ったことがなかったジゼルは
村までのちょっとした距離でも息があがってしまう。
(いつまでもこんなところにいたら見つかってしまうかも。早く逃げないと。)

「うわぁ、お姉ちゃん汗びっしょり。大丈夫?」
ジゼルが振り返ると5歳ぐらいの年頃の男の子がジゼルを見上げている。
「僕の家すぐそこだから、おいでよ。何か飲まないと倒れちゃうよ。」
少年はジゼルの手を掴むと、ぐいぐいと自分の家に引っ張て行く。
「ここが僕の家。ちょっと待っててね。」
少年は自分の母を呼びながら家の中へ消えて行った。
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