君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
広大な王宮の正門を前にして、
ジゼルは自分が暮らした城を見上げた。

もう2度とここに来ることはないかもしれないというのに、
寂しいという感情はあまりわかなかった。
出発に先立って王族に別れの挨拶をした時も同様だった。

ジゼルの髪の毛が赤毛からブルネットに変わっていることに国王は何の反応も示さず、
「ユリウス国王に迷惑をかけることがないように」という何の感情もない一言だけ。
まだ幼いダミアン王太子とシャルロットは幾分可愛げがあったが、
ジゼルが嫁ぐ元凶の王妃や事情を知っているであろうデルフィーヌとドミニクは
ニヤっと笑みを浮かべていたり、憐みの表情を浮かべていたりして、
ジゼルの中に怒りにも似た感情が込み上げてきた。
(今まで存在を無視してきたくせに、自分たちが嫌なことは私に押し付けるなんて・・・)

そして今、
仮にも自国の王女が他国に嫁ぐというのになんと寂しい見送りだろうか。
正門の門番を除けば、たった7人である。
乳母のマルゴと、その夫でジゼルに勉強を教えてくれたクレマン先生。
マルゴとクレマン先生の孫で、ジゼルの唯一の友達アラン。彼は今、医学生だ。
ジゼルと一緒に藤棚の世話をしてくれた庭師のコルベールさん。藤棚の世話は彼に任せてある。
それからグリシーヌ宮で働いてくれた女官2名ほど。
最後は国王から遣わされたのであろうギルマン伯爵。
たったのこれだけ。

(でもこれでよかったのかもしれない。仰々しく見送られても興醒めだわ。)
マルゴたちと抱き合って別れを惜しみ、馬車に乗り込みながらジゼルは思った。
いつまでもくよくよしていてはいけない。前を向かなければ。
私自身が幸せになるために!
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