君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
「ジジは今年はマスカレードに出る?」
夕食の席でウィリアムはジゼルに声をかけた。
ジゼルはあまり社交の場が好きではないようで、
お茶会やパーティーにもあまり顔を出さない。
去年のマスカレードも「大学のレポートが忙しい」という理由で
最初の方だけ参加してすぐに退出していた。

「え、どうしようかな?」
マスカレードのことなど頭の片隅にもなかったジゼルは
ウィリアムの問いに考え込んでしまった。

ジゼルは正式にウィリアムの養女になったあと、
ウィリアムやアリスの勧めもあって大学に進学することにした。
大学進学のためには資格が必要だったので、
家庭教師を招いて猛勉強を開始する。
勉強が性に合っていたのかぐんぐん知識を吸収して、
大学入学資格試験に一発合格。
去年から農学部の学生として忙しくも充実した日々を送っていた。
今も毎日、たくさんの課題やレポート提出に追われていて、
遊びに出かける余裕はない。

「せっかくの3連休だから、溜まっているレポートを仕上げようかなと思うんだけど。」
ジゼルがマスカレードへの出席をやんわり断ろうとすると、ウィリアムはあからさまに残念な顔をする。
「ジジは頑張りすぎだよ。勉強熱心なのは素晴らしいけどさ、せっかくの休みはうんと楽しまないと。」
「でも、私はあまり華やかな場所は得意じゃないし。」
「年に一度のマスカレードはウィステリアの女子学生が一番気合いを入れるイベントなんだよ。この前パブで知り合ったおじさんの娘は、マスカレードのドレスを買うためにバイト代を必死で貯めてるって言ってたし。」
「私が学生だった時も、友達みんなでどんなドレスを着るか、仮面のデザインはどうするかですごく盛り上がったわ。学生時代の楽しい思い出よ。」
ユリウスのためにも何が何でもジゼルに参加してもらわなければ困ると、
ウィリアムとアリスは必死に説得する。
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