君の愛に酔う      ~藤の下で出会った2人の物語~
「ウィルッ」
思わず名前を言ってしまったジゼルの口元に、その男性は人差し指を当てる。
「おっと、今日は私は名もなき紳士だ。私も貴女が誰か知らない。ただ貴女の美しさに引き寄せられてしまったんだよ。」
(絶対私がジゼルだって分かっているくせに。)
ウィリアムの歯の浮くようなセリフに思わずジゼルは笑い出してしまう。
「ふふふ。魅力的な紳士の方。ぜひお相手をお願いしたいですわ。」

さすが国王陛下、とでも言うべきか。
ウィリアムのリードは優雅でそつがない。
「レディは、マスカレードを楽しんでいますか?」
「はい、とっても。最初はあまり乗り気ではなかったんですけれど、両親の言う通りに来て、本当に良かったです。」
「それは良かった。ではこの後も楽しんで。」
曲の終わりとともにウィリアムはジゼルに恭しく礼をしたので、ジゼルもそれにこたえる。
そしてウィリアムからジゼルの手が離れた途端、
ウィリアムの前には次のダンスを申し込む淑女が殺到していた。

(最初の挨拶をしてたから、やっぱりみんなウィルのこと分かってるのよね。)
国王とダンスできるなんて、通常では王族以外の女性ではありえないことだ。
この千載一遇のチャンスを逃すまいとみんな一生懸命になるのも当然だろう。
(そういった女性たちの相手をしなきゃいけないウィルも大変。マスカレード中は休みなしなんじゃないかしら。)
ジゼルは思わず父に同情してしまった。
ふと気になってカクテルを配っているボーイに時間を確認すると、もうすぐ22時。
気が付けばあっという間にマスカレードの半分が終わろうとしていた。
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