新そよ風に乗って 〜焦心〜
「そろそろ、帰るぞ」
「はい。えっ? もう、こんな時間」
食後にコーヒーを頂いて、暫く明良さんの面白い話に聞き入っていたら、あっという間に時間が経ってしまっていた。
「ご馳走様でした」
「陽子ちゃん。また、来てね」
「はい。ありがとうございます」
「貴博抜きでも、全然OKだから」
明良さんは、わざと高橋さんに顔を近づけて言った。
明良さんったら。
「お邪魔……」
「お前。何か、忘れてないか?」
エッ……。
「そうだ。陽子ちゃん。冷蔵庫に、預かってたものが……」
「あっ!」
明良さんが、急いでキッチンに戻って持ってきてくれた。
「すみません。すっかり忘れてました。ありがとうございます」
受け取ろうすると、高橋さんの手が横から出て来て先に受け取ってしまった。
「あの、持てますから」
「明良。またな。ゴチ」
「はいよー」
「あ、あの……」
「陽子ちゃん。おやすみ」
「あっ。明良さん。ご馳走様でした。おやすみなさい」
先に出ていった高橋さんを、慌てて追いかけた。
「高橋さん。私、持てますから大丈夫です」
「また、転んで飛んで来られても困るから」
うっ。
それを言われると……。
「あの、いちばん近い駅で降ろして頂けますか?」
「……」
高橋さんの車に乗ってそうお願いしたが、高橋さんは何も応えてくれなかった。
「高橋さん?」
「大丈夫だ」
「でも……」
< 101 / 247 >

この作品をシェア

pagetop