新そよ風に乗って 〜焦心〜
また1週間が始まり、朝、高橋さんに頼まれた書類を総務に持って行くため、エレベーターに乗って総務に向かっていた。
総務課長に高橋さんから預かった書類を渡し終え、帰り際にまゆみを捜すとタイミング悪く電話中だった。
それでも、まゆみは私の存在に気づいてくれたので、小さく胸の前でお互いに手を振り合ってそのまま総務の事務所を後にした。
エレベーターホールでボタンを押そうとしたが、見ると悲劇的に全基とも遙か下の1階付近にいたので、トイレに寄ってから戻ろうと思い、そのままエレベーターホールを通り過ぎる。突き当たりのガラス張りの窓から、どんよりとした冬空の景色にふと目をやり、外は寒そうだなと感じながらトイレのドアを開けようとドアを押した。
「キャッ!」
しかし、いきなり誰かに腕を引っ張られて、トイレのドアを開け損なったまま、トイレの奥のコピー用紙等のストックが置いてある、ちょっとしたスペースに背中を押されるように誘われてしまった。
驚きのあまり、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには遠藤主任の顔が間近に迫っていた。
「え、遠藤主任。ちょ、ちょっと、離して下さ……痛っ……」
そんな私の訴え等、無視するかのように、遠藤主任にガラス張りの窓に背中を押しつけられてしまった。
「此処なら、ゆっくり話も出来る。滅多に、誰も来ないしな。煩い高橋の目も、流石に此処までは行き届かないだろう」
恐怖で足がガクガク震えて怖さで声も出ないまま、両肩を掴まれると遠藤主任が迫ってきた。
本当に怖いと感じると、思うように声が出て来ない。喉の奥が詰まって、声が出ない。
すると、遠藤主任が右手を私の肩から離し、携帯をポケットから出して画面を開いて操作を始めた。何処かから、メールか電話でも掛かって来たのかもしれない。
ならば、その隙に……と思ったが、グッと片手で肩を掴まれたまま、背中をガラスに押し付けられているので身動きが取れない。
携帯を操作していた遠藤主任が、何故か携帯画面をかざした。
「ほら、見て。これ、かなり綺麗だと思わない?」
遠藤主任が、画面が見えるように携帯の角度を変えてこちらに向けたが、何の画像だかよく見えなかったので画面に顔を少し近づけると、いきなり遠藤主任が私の顎を乱暴に掴んだ。
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