新そよ風に乗って 〜焦心〜

「じゃあ、飯食って帰ろう。ちょうど、明良もいるから。久しぶりだろう？」
エッ……。
明良さん？
そう言えば、明良さんに久しく会っていない。
「あっ、はい。明良さんに、久しぶりにお会い出来るんですね？　嬉しいな」
思わず、口に出てしまった。　
「フッ……」
な、何？
私、変なこと言ったの？
高橋さんが、こちらを見ながら笑っているので、そっと視線を高橋さんに向けると、バッチリ視線が合ってしまった。
「な、何ですか？」
「ん？　いや……お前は、やっぱりそうやって笑っている方がいい」
「高橋さん……」
高橋さんは、優しく微笑みながら車を発進させた。
私、笑ってなかったのかな？　あんなことがあったから……。
高橋さんも、明良さんに久しぶりに会うそうだ。
「今日は覚悟しておかないと、きっと明良のことだ。お喋りマシーン全開で煩いぞ」
「そ、そうですね」
その後、高橋さんが明良さんの行動パターンを教えてくれた。それが、本当に明良さんが言いそうで、尚かつ、やりそうなことだったのでリアルに感じていると、程なくお店に着いた。
駐車場に車を停めると、先ほど高橋さんが言っていたとおり、やはり明良さんは、車で来ていなかった。
高橋さんには、明良さんの行動はお見通しなんだ。凄いな。でも、だとすると……。明良さんにも高橋さんのことは、お見通しなのかな？
お店に入ると、久しぶりに明良さんの姿を見つけてとても嬉しくなってしまった。
「あっ。陽子ちゃあん。久しぶりだねえ。元気だった？」
あっ……い、嫌……。
明良さんが、いつものようにhugしてきた。いつもならば、明良さんったら……ぐらいで笑って済ませられていたのに、今日はそれが何故か怖い。相手は明良さんで怖いはずがないのに、怖くて全身がガタガタ震え出してしまった。
「陽子……ちゃん？」
明良さんが、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
押さえようとしても、震えが止まらない。
「明良。いい加減、離れろ」
「えっ？　あ、ああ……」
高橋さんが察してくれて、さり気なく私から明良さんを離してくれた。
今の不自然な私の行動に、明良さんは敢えて触れないでくれたけれど、でもきっと勘の鋭い明良さんのことだから、何か気づいているかもしれない
ごめんなさい……明良さん。
明良さんは、その後、何事もなかったようにメニューを見ながら、ああでもない、こうでもないと高橋さんと言い合っていたが、先ほどのことがショックでその会話に参加できずにいた。