新そよ風に乗って 〜焦心〜
「それは……」
本当のことだから、何も言い訳出来なかった。改めて、自分の大きな過ちに気づく。
「これだけの社外秘の書類や、まして金庫があるのにそのままにしたのか?」
「申し訳ありません……」
頭を下げたまま、自分のとった無責任で軽率な行動を悔いた。
「まあまあ、高橋。そこまで、ムキにならなくてもいいだろう? 矢島は俺が此処に居たから、それで大丈夫だと思ったんだよ」
「お前は、黙ってろ」
遠藤主任の意味不明な助け船を、高橋さんは即座に拒絶した。
「高橋。お前って言い方はないだろう? 人が、せっかく言ってやってるのに」
すると、高橋さんが私の後ろに居る遠藤主任に向き直った。
「言いたくはないが、俺はお前より上位だ。とにかく、取り敢えず全員事務所に入れ」
遠藤主任に対する高橋さんの言い方は、まるで血が通ってない人のような冷たさが感じられ、思い出しただけで背中がゾクッとしながら無言で事務所に入った。
「部外者だから、俺は帰っていいよな」
後ろから声がして振り返ると、遠藤主任がエレベーターホールにそのまま立っていた。
「お前もだ。遠藤」
「何でだよ」
「上司命令だ」
高橋さん……。
高橋さんの遠藤主任に向けられた色をなさない瞳からは、温かさなどこれっぽっちも感じられない。
結局、遠藤主任もそのまま事務所に入り、会計監査の机の周辺に集まった。
あっ……。
さっき遠藤主任にぶつけた椅子が、とんでもない方向を向いて机とは正反対の壁にぶつかったままの状態で無惨な姿になっている。
その光景を見ただけで、先ほどの恐怖が蘇って来てしまった。
エッ……。
ジッと椅子を見ていると、中原さんに肩を突かれた。
「はい」
中原さんがひと言小声で言うと、目の前に携帯を差し出した。
「あっ。私の携帯……」
確か、ポケットに入れてあったはずなのに……。
中原さんは、いいからと宥めるようなジェスチャーをしながら、そのまま自分の席に戻って行った。
落とした?
何処に、落ちていたんだろう?
さっき、転んだ拍子に落としたのかな?
中原さんは直接関係ないので、そのまま席に着いて残務整理を始めている。
「それで? こんな時間に、遠藤は此処に何をしに来たんだ?」
高橋さんは、立ったままキャビネットに寄り掛かって腕を組みながら遠藤主任に問い質している。
「俺? 俺は、ちょうどエレベーターがこの階で開いて、事務所の電気が点いていたから 誰かまだ残ってるのかなと思って、ちょっと覗いてみただけだよ」
本当のことだから、何も言い訳出来なかった。改めて、自分の大きな過ちに気づく。
「これだけの社外秘の書類や、まして金庫があるのにそのままにしたのか?」
「申し訳ありません……」
頭を下げたまま、自分のとった無責任で軽率な行動を悔いた。
「まあまあ、高橋。そこまで、ムキにならなくてもいいだろう? 矢島は俺が此処に居たから、それで大丈夫だと思ったんだよ」
「お前は、黙ってろ」
遠藤主任の意味不明な助け船を、高橋さんは即座に拒絶した。
「高橋。お前って言い方はないだろう? 人が、せっかく言ってやってるのに」
すると、高橋さんが私の後ろに居る遠藤主任に向き直った。
「言いたくはないが、俺はお前より上位だ。とにかく、取り敢えず全員事務所に入れ」
遠藤主任に対する高橋さんの言い方は、まるで血が通ってない人のような冷たさが感じられ、思い出しただけで背中がゾクッとしながら無言で事務所に入った。
「部外者だから、俺は帰っていいよな」
後ろから声がして振り返ると、遠藤主任がエレベーターホールにそのまま立っていた。
「お前もだ。遠藤」
「何でだよ」
「上司命令だ」
高橋さん……。
高橋さんの遠藤主任に向けられた色をなさない瞳からは、温かさなどこれっぽっちも感じられない。
結局、遠藤主任もそのまま事務所に入り、会計監査の机の周辺に集まった。
あっ……。
さっき遠藤主任にぶつけた椅子が、とんでもない方向を向いて机とは正反対の壁にぶつかったままの状態で無惨な姿になっている。
その光景を見ただけで、先ほどの恐怖が蘇って来てしまった。
エッ……。
ジッと椅子を見ていると、中原さんに肩を突かれた。
「はい」
中原さんがひと言小声で言うと、目の前に携帯を差し出した。
「あっ。私の携帯……」
確か、ポケットに入れてあったはずなのに……。
中原さんは、いいからと宥めるようなジェスチャーをしながら、そのまま自分の席に戻って行った。
落とした?
何処に、落ちていたんだろう?
さっき、転んだ拍子に落としたのかな?
中原さんは直接関係ないので、そのまま席に着いて残務整理を始めている。
「それで? こんな時間に、遠藤は此処に何をしに来たんだ?」
高橋さんは、立ったままキャビネットに寄り掛かって腕を組みながら遠藤主任に問い質している。
「俺? 俺は、ちょうどエレベーターがこの階で開いて、事務所の電気が点いていたから 誰かまだ残ってるのかなと思って、ちょっと覗いてみただけだよ」