新そよ風に乗って 〜焦心〜
いつの間にか、高橋さんが助手席のドアを開けてくれている。きっと、ボーッとしていたんだろう。それすら、気づかなかった。車に乗る前に、言わなければ。
「あの……」
「何だ?」
「さっきは、本当に申し訳ありませんでした」
「何がだ?」
あっ……主語がなかった。
「事務所の鍵を開けっ放しのまま飛び出してしまって、本当に無責任な行動でした。申し……」
「いいから、取り敢えず乗って」
高橋さんは、私の背中を押して助手席に座らせてドアを閉めると、運転席に回り車を直ぐに発進させた。
何も取り合って貰えず、黙ったまま助手席に座っているしかなくて、遠藤主任に追いかけられたことをまた思い出してしまい、ギュッと手に持っていたハンカチを握りしめた。
会社を出て暫く走って信号待ちをしている時に、高橋さんがこちらを向いたのが分かった。
「今夜は、俺のマンションに泊まれ」
「えっ?」
「明日の朝、家まで送っていくから、それで着替えてから出社すればいい」
「と、泊まるって、どうしてですか?」
高橋さんが、突然そんなことを言い出したので、焦って問い返してしまった。
「念には、念をだ。もし、お前の家に遠藤が行ったりしたら困る」
嘘。
絶対、そんなの嫌だ。考えただけで、怖くて足が震えてきた。
「仮にも、遠藤だって総務の主任だ。ちょっと調べれば、お前の家の住所ぐらい直ぐに分かるだろう。まして、名倉部長に明日、お前が聞かれることも知っているわけだから」
そんな……。
ガクガクと先ほどより足の震えが増しているのが自分でも分かる。まさか……。もしかして、これから先もこんなことが続くの? そう思っただけで、背筋が凍りそうなほど怖い。
「今は、俺がいる。大丈夫だ」
「高橋さん……」
その夜、高橋さんの言うとおり、高橋さんのマンションに泊めてもらうことにしたが、夕食はもう遅かったので適当に高橋さんの家にあるもので済ませた。
けれど、明日のことや遠藤主任のことが気になって、殆ど口にすることが出来ない。それでも、高橋さんも敢えて無理に食べろとは言わなかった。
「あの……」
「何だ?」
「さっきは、本当に申し訳ありませんでした」
「何がだ?」
あっ……主語がなかった。
「事務所の鍵を開けっ放しのまま飛び出してしまって、本当に無責任な行動でした。申し……」
「いいから、取り敢えず乗って」
高橋さんは、私の背中を押して助手席に座らせてドアを閉めると、運転席に回り車を直ぐに発進させた。
何も取り合って貰えず、黙ったまま助手席に座っているしかなくて、遠藤主任に追いかけられたことをまた思い出してしまい、ギュッと手に持っていたハンカチを握りしめた。
会社を出て暫く走って信号待ちをしている時に、高橋さんがこちらを向いたのが分かった。
「今夜は、俺のマンションに泊まれ」
「えっ?」
「明日の朝、家まで送っていくから、それで着替えてから出社すればいい」
「と、泊まるって、どうしてですか?」
高橋さんが、突然そんなことを言い出したので、焦って問い返してしまった。
「念には、念をだ。もし、お前の家に遠藤が行ったりしたら困る」
嘘。
絶対、そんなの嫌だ。考えただけで、怖くて足が震えてきた。
「仮にも、遠藤だって総務の主任だ。ちょっと調べれば、お前の家の住所ぐらい直ぐに分かるだろう。まして、名倉部長に明日、お前が聞かれることも知っているわけだから」
そんな……。
ガクガクと先ほどより足の震えが増しているのが自分でも分かる。まさか……。もしかして、これから先もこんなことが続くの? そう思っただけで、背筋が凍りそうなほど怖い。
「今は、俺がいる。大丈夫だ」
「高橋さん……」
その夜、高橋さんの言うとおり、高橋さんのマンションに泊めてもらうことにしたが、夕食はもう遅かったので適当に高橋さんの家にあるもので済ませた。
けれど、明日のことや遠藤主任のことが気になって、殆ど口にすることが出来ない。それでも、高橋さんも敢えて無理に食べろとは言わなかった。