新そよ風に乗って 〜焦心〜

見えない心

「だから、安心してもう寝ろ」
高橋さん……。
高橋さんは、ベッドの脇に座ると私の前髪を掻き分けた。
駄目。ドキドキしてきちゃった。
こんなんじゃ、とてもじゃないけれど余計眠れなくなりそう……。
「また、この前の話の続きでいいか?」
エッ……。
嘘……嬉しい。
思いっきり寝ながら頷くと、高橋さんがフワッと笑った。
「だったら早く目を、つ・ぶ・れ」
「はい」
「フッ……即答か。素直だな」
そして、高橋さんのこの前のダイビング旅行の話の続きを聞きながら、眠れないと思っていたのに会社での極度の緊張と恐怖感から少し解放されたこともあったからか、知らぬ間に眠っていて、携帯のアラームで目が覚めた時には、ベッドの脇に高橋さんの姿は無論もうなかった。
朝、一旦、家に高橋さんに車で家に送ってもらい、高橋さんはそのまま会社に行ってしまったが、私は着替えて少しだけ時間があったので、いずれ分かってしまう前にまゆみにメールをしてから家を出て、気持ちを落ち着かせるためにもゆっくり駅まで歩いて行った。事務所に着くと、当然のことながら高橋さんは、もう席に着いて仕事をしていた。
「おはようございます」
「おはよう」
高橋さんは、顔をあげて挨拶をしてくれると、またパソコン画面に向かっていた。
大人だな……。
私は、今も昨日の夜のことを、高橋さんと顔を合わせて思い出してしまったのに、公私混同しない高橋さんは流石だと思う。
中原さんも、もう出社しているみたいで、大量の書類のコピーを終えてデスクに戻ってきた。
「おはようございます」
「あっ。矢島さん。おはよう」
そうだ。昨日の携帯の件を、中原さんに聞いてみよう。
「中原さん」
「はい」
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