新そよ風に乗って 〜焦心〜
「はい」
嘘。
も、もう、臨時役員会って。そんなに早く……。
高橋さんが書類の向きを変えて、名倉部長に手渡した。
「矢島さん。いろいろ、立ち入ったことを聞いて悪かったね」
名倉部長。
「い、いえ、あの……よろしくお願い致します」
「君の上司に感謝しなさい。このことが発覚した段階で、高橋君は直ぐに動いたんだよ。それで私の所に来て、即刻調査をと……。そんな直ぐには会社の組織上、無理だということも承知の上でな。手遅れになってからでは遅い。自腹を切ってでもと、社長に直談判しに行ってね。それで、内々に直ぐ調査に取りかかっていたんだよ」
高橋さん……。
驚いて、高橋さんを見た。けれど、高橋さんは表情ひとつ変えない。
高橋さんがそんなことをしてくれていたなんて、何も知らなかったし、何も言ってくれなかった。私の知らないところで、高橋さんは……。
「名倉部長。もう……」
高橋さんが、名倉部長の話に割って入ってきた。
「それじゃ、確かにこの2部の書類は、私が預かりましたから。大竹部長。では、行きましょうか」
「そうですね」
名倉部長と大竹部長が会議室から出て行こうとしたので、高橋さんと一緒に直ぐに立ち上がってお辞儀をして見送った。
これから、どうなるんだろう。
それに、知らなかった。高橋さんは、名倉部長が言っていたけれど、私の知らないところで社長に直談判までしてくれていたの? ただ怯えるだけで、怖がってた私は……。
「何、ボーッと立ってるんだ? 取り敢えず、座って」
肩を叩かれて我に返ると、高橋さんがさっきまで大竹部長が座っていた席に座り、私にも座るよう促した。
ま、まだ何かあるの?
「大丈夫か?」
エッ……。
「終わったな」
「高橋さん。あの……」
「何だ?」
高橋さんは長机の上に両肘を突くと、顔の直ぐ下で両手を組んで顎をのせながら私を見た。
「何で、言ってくれなかったんですか?」
「明日は、臨時役員会だ」
話しが、全然かみ合わない。
「高橋さん!」
質問に、応えて欲しいのに……。
「こういうことは、長引かせてもよくない。お互い顔を合わせたりして、決して良いことはないからな。だから、直ぐに開かれることになっている。矢島さんは、明日は役員会には出なくていいから。もう、安心していいぞ」
「えっ?」
出なくていいの?
「出てもいいが、顔を合わせたくないだろう?」
「はい……」
それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろしながら意味もなく右の鎖骨をぐりぐりと左手で押していた。
「遠藤の処遇は、明日の役員会で聴取した後、今までの例からいって殆どその日のうちに決まる。これで懸念されていたことは片付いたから、後は部長に任せて矢島さんは仕事に専念して欲しい」
高橋さんは、上司としての見解を話してくれている。でも、さっきの私の質問には応えてくれない。もう、応えてはくれないのかもしれない。
嘘。
も、もう、臨時役員会って。そんなに早く……。
高橋さんが書類の向きを変えて、名倉部長に手渡した。
「矢島さん。いろいろ、立ち入ったことを聞いて悪かったね」
名倉部長。
「い、いえ、あの……よろしくお願い致します」
「君の上司に感謝しなさい。このことが発覚した段階で、高橋君は直ぐに動いたんだよ。それで私の所に来て、即刻調査をと……。そんな直ぐには会社の組織上、無理だということも承知の上でな。手遅れになってからでは遅い。自腹を切ってでもと、社長に直談判しに行ってね。それで、内々に直ぐ調査に取りかかっていたんだよ」
高橋さん……。
驚いて、高橋さんを見た。けれど、高橋さんは表情ひとつ変えない。
高橋さんがそんなことをしてくれていたなんて、何も知らなかったし、何も言ってくれなかった。私の知らないところで、高橋さんは……。
「名倉部長。もう……」
高橋さんが、名倉部長の話に割って入ってきた。
「それじゃ、確かにこの2部の書類は、私が預かりましたから。大竹部長。では、行きましょうか」
「そうですね」
名倉部長と大竹部長が会議室から出て行こうとしたので、高橋さんと一緒に直ぐに立ち上がってお辞儀をして見送った。
これから、どうなるんだろう。
それに、知らなかった。高橋さんは、名倉部長が言っていたけれど、私の知らないところで社長に直談判までしてくれていたの? ただ怯えるだけで、怖がってた私は……。
「何、ボーッと立ってるんだ? 取り敢えず、座って」
肩を叩かれて我に返ると、高橋さんがさっきまで大竹部長が座っていた席に座り、私にも座るよう促した。
ま、まだ何かあるの?
「大丈夫か?」
エッ……。
「終わったな」
「高橋さん。あの……」
「何だ?」
高橋さんは長机の上に両肘を突くと、顔の直ぐ下で両手を組んで顎をのせながら私を見た。
「何で、言ってくれなかったんですか?」
「明日は、臨時役員会だ」
話しが、全然かみ合わない。
「高橋さん!」
質問に、応えて欲しいのに……。
「こういうことは、長引かせてもよくない。お互い顔を合わせたりして、決して良いことはないからな。だから、直ぐに開かれることになっている。矢島さんは、明日は役員会には出なくていいから。もう、安心していいぞ」
「えっ?」
出なくていいの?
「出てもいいが、顔を合わせたくないだろう?」
「はい……」
それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろしながら意味もなく右の鎖骨をぐりぐりと左手で押していた。
「遠藤の処遇は、明日の役員会で聴取した後、今までの例からいって殆どその日のうちに決まる。これで懸念されていたことは片付いたから、後は部長に任せて矢島さんは仕事に専念して欲しい」
高橋さんは、上司としての見解を話してくれている。でも、さっきの私の質問には応えてくれない。もう、応えてはくれないのかもしれない。