新そよ風に乗って 〜焦心〜
「それと……明日、終わったら帰り空けとけ」
エッ……。
高橋さんは、会議室のドアの方を向いたままそう告げると、こちらを振り返ることもなく勢いよくドアを開けて出て行ってしまった。
な、何?
会議室の電気を消して、使用中のプレートをスライドさせて空室に直している高橋さんの 濃紺のピンストライプスーツの背中を見ながら、今、高橋さんに言われたことを頭の中で何度も反芻していた。
『明日、終わったら帰り空けとけ』 って……。
明日の朝、臨時役員会が開かれ、そこで遠藤主任の処遇が決まる。その明日、終わったら 帰り明けとけって……。
高橋さん。何?
ただでさえ、慌ただしい15日。でも、いつもの15日の朝とはちょっと違う。今朝は、臨時役員会が開かれる日。
なるべく平静を装いつつ、普段と変わらず同じ時間に出社した。
会社に着いてエレベーターに乗るが、やはり出社時間帯は集中するので最後尾に並んで待っていると、女子社員同士の会話が耳に入ってきた。
「昨日、経理の高橋さんに、渡しちゃった。うふっ」
「うっそぉ。私もよ」
「マジで? 私も」
2、3人の女子社員の会話なので、混雑しているエレベーターホールだったが、いくら小声で話しているとはいえ、直ぐ後ろに並んでいる私にもよく聞こえた。
何? 渡したって……。何の話?
「あっ。私のと、文面ちっがぁう。私のには、違うこと書いてあったよぉ」
「えっ? そうなの?」
「私にも見せて。どれどれぇ? 本当だ。嫌だぁん。高橋さん。私のとも、違うよぉ」
「ええっ? もしかして、これってコピーじゃなくて、みんなそれぞれ違うってこと?」
「何か、それ凄くない? それぞれみんな違うメールなんて、嬉しいかもぉ」
いったい、何の話なんだろう? みんな自分の席のパソコンの画面を見ながら、一様に騒がしい。
渡しちゃった? メール?
高橋さんからのメール?
それぞれ違うって、何の話?
何か、昨日あったのかな? 昨日……昨日は……遠藤主任のことで頭がいっぱいだったし、高橋さんも殆ど席に居なかった。
事務所に入ると、そんな声があちらこちらから聞こえてきて、一際パソコンの前に人だかりが出来ている場所では、黒沢さんが輪の中心になって騒がしかったので、取り敢えず横を通った時に挨拶をしたが、誰も聞こえていないのか、聞いていないのか、みんなで話に夢中になっていた。
朝から、いったい何なんだろう?
昨日、高橋さんは別に何も言ってなかったけど、メールで通達でも流したのかな? 後で、確認しなくちゃ。
何の騒がしさなのか分からず、不思議に思いながら会計監査の一角に差し掛かると、毎朝 いつものように見られる光景。高橋此処に居ますオーラが、今朝は出ていなかった。
そうだった……。
一瞬、先ほどからの周りの騒がしさで忘れそうになっていたが、今朝は臨時役員会で高橋さんも出席してるから、朝は居なくて当然だった。
「おはようございます」
「あっ。おはよう」
中原さんも、もう来ていて仕事をしている。
そうだ!
もしかして、中原さんだったら知ってるかな?
もし仕事のことだったら、昨日は私もあんなにとっちらかっていたから聞き逃してしまっていたかもしれないし……。
「中原さん。昨日、何かメールで通達出しましたか?」
エッ……。
高橋さんは、会議室のドアの方を向いたままそう告げると、こちらを振り返ることもなく勢いよくドアを開けて出て行ってしまった。
な、何?
会議室の電気を消して、使用中のプレートをスライドさせて空室に直している高橋さんの 濃紺のピンストライプスーツの背中を見ながら、今、高橋さんに言われたことを頭の中で何度も反芻していた。
『明日、終わったら帰り空けとけ』 って……。
明日の朝、臨時役員会が開かれ、そこで遠藤主任の処遇が決まる。その明日、終わったら 帰り明けとけって……。
高橋さん。何?
ただでさえ、慌ただしい15日。でも、いつもの15日の朝とはちょっと違う。今朝は、臨時役員会が開かれる日。
なるべく平静を装いつつ、普段と変わらず同じ時間に出社した。
会社に着いてエレベーターに乗るが、やはり出社時間帯は集中するので最後尾に並んで待っていると、女子社員同士の会話が耳に入ってきた。
「昨日、経理の高橋さんに、渡しちゃった。うふっ」
「うっそぉ。私もよ」
「マジで? 私も」
2、3人の女子社員の会話なので、混雑しているエレベーターホールだったが、いくら小声で話しているとはいえ、直ぐ後ろに並んでいる私にもよく聞こえた。
何? 渡したって……。何の話?
「あっ。私のと、文面ちっがぁう。私のには、違うこと書いてあったよぉ」
「えっ? そうなの?」
「私にも見せて。どれどれぇ? 本当だ。嫌だぁん。高橋さん。私のとも、違うよぉ」
「ええっ? もしかして、これってコピーじゃなくて、みんなそれぞれ違うってこと?」
「何か、それ凄くない? それぞれみんな違うメールなんて、嬉しいかもぉ」
いったい、何の話なんだろう? みんな自分の席のパソコンの画面を見ながら、一様に騒がしい。
渡しちゃった? メール?
高橋さんからのメール?
それぞれ違うって、何の話?
何か、昨日あったのかな? 昨日……昨日は……遠藤主任のことで頭がいっぱいだったし、高橋さんも殆ど席に居なかった。
事務所に入ると、そんな声があちらこちらから聞こえてきて、一際パソコンの前に人だかりが出来ている場所では、黒沢さんが輪の中心になって騒がしかったので、取り敢えず横を通った時に挨拶をしたが、誰も聞こえていないのか、聞いていないのか、みんなで話に夢中になっていた。
朝から、いったい何なんだろう?
昨日、高橋さんは別に何も言ってなかったけど、メールで通達でも流したのかな? 後で、確認しなくちゃ。
何の騒がしさなのか分からず、不思議に思いながら会計監査の一角に差し掛かると、毎朝 いつものように見られる光景。高橋此処に居ますオーラが、今朝は出ていなかった。
そうだった……。
一瞬、先ほどからの周りの騒がしさで忘れそうになっていたが、今朝は臨時役員会で高橋さんも出席してるから、朝は居なくて当然だった。
「おはようございます」
「あっ。おはよう」
中原さんも、もう来ていて仕事をしている。
そうだ!
もしかして、中原さんだったら知ってるかな?
もし仕事のことだったら、昨日は私もあんなにとっちらかっていたから聞き逃してしまっていたかもしれないし……。
「中原さん。昨日、何かメールで通達出しましたか?」