新そよ風に乗って 〜焦心〜
「通達? 出してないと思うよ」
「そうなんですか? でも、さっきから高橋さんからメールがあったとか、高橋さんからメールが届いている人が居るみたいなんですよね。」
「高橋さんからメール……。何だろう? 特に、何も聞いてないけど」
「そうですか。あの、向こうの席の人も何かメール見て騒いでいたんですよね」
私の視線の先を追うように、中原さんも見た。
「そうなんだ。でも、もしそうだとしても、後で話があるんじゃない? もしかしたら、高橋さんが伝えるのを忘れているのかもしれないし」
高橋さんが、伝えるのを忘れている?
でも、考課表提出も忘れてたし……。
高橋さんでも、そんなことがあるのかもしれない。昨日は、私のこともあったし忙しい人だから。
何となく腑に落ちなかったけれど、そればかり気にしてもいられないので取り敢えず仕事を始めたが、今度は遠藤主任の臨時役員会のことが頭を過ぎってしまい、何度電卓を叩いても計算が合わなくてイライラしていた。
はあ……。
さっきから、時間の経つのが遅い。今頃、どうなっているんだろう。考えただけで、ギュッと心臓を鷲づかみされたような息苦しさを感じる。
万が一、遠藤主任が……。想像しただけで、背筋が寒くなった。
いったい、どんな話し合いが持たれているんだろう? こんなことだったら、出席した方が良かったかな。でも、遠藤主任と顔を合わせただけで、恐らくパニックを起こしてしまいそう。だからかもしれないが、高橋さんも敢えて出なくていいと言ってくれたんだ。
時間が経つのが遅すぎて、自分ではどうすることも出来ないジレンマと心の中で葛藤しながら捗らない計算をしていると、足音がして高橋さんの声が聞こえた。
「ただいま」
「あっ。お帰りなさい」
中原さんが、いち早く気づいて高橋さんに声を掛けた。
「お、お帰りなさい」
指先が震えて、電卓を叩く手も止まってしまった。
高橋さんが持っていた書類とファイルを机の上に置いたが、ファイルの中身は何も入ってないらしく、システム手帳と書類だけを机の上に残すとファイルは後ろのキャビネットの中にしまっている。
その光景をボーッと眺めていると、顔の前で手を振られた。
エッ……。
「陽子」
「あっ……。まゆみ」
「あっ……じゃないわよ。さっきから、ずっと此処に立ってるのに、全然気づかないんだから」
「ご、ごめんね。気がつかなかった」
まゆみが、私の右耳元に顔を近づけた。
「もう、ハイブリッジのことばっかり見ちゃってさ。」
うっ。
小声で言われたが、まゆみのひと言に焦って危うく椅子から飛び跳ねそうになって、慌てて背筋を伸ばしたふりをして誤魔化した。
「財務に、書類届けに来たのよ」
「そ、そうだったの。そうだ。まゆみに、話したいことがあったんだけど」
「何?」
「矢島さん。ちょっと、いいかな?」
まゆみと話していると、高橋さんに呼ばれた。
「は、はい」
「じゃあ、またね」
「う、うん」
小声でまゆみと挨拶を交わし、高橋さんの席の方へと向かった。
「……そうだな……中原」
「はい」
「ちょっと、面接してくるから。AかBに居る」
「そうなんですか? でも、さっきから高橋さんからメールがあったとか、高橋さんからメールが届いている人が居るみたいなんですよね。」
「高橋さんからメール……。何だろう? 特に、何も聞いてないけど」
「そうですか。あの、向こうの席の人も何かメール見て騒いでいたんですよね」
私の視線の先を追うように、中原さんも見た。
「そうなんだ。でも、もしそうだとしても、後で話があるんじゃない? もしかしたら、高橋さんが伝えるのを忘れているのかもしれないし」
高橋さんが、伝えるのを忘れている?
でも、考課表提出も忘れてたし……。
高橋さんでも、そんなことがあるのかもしれない。昨日は、私のこともあったし忙しい人だから。
何となく腑に落ちなかったけれど、そればかり気にしてもいられないので取り敢えず仕事を始めたが、今度は遠藤主任の臨時役員会のことが頭を過ぎってしまい、何度電卓を叩いても計算が合わなくてイライラしていた。
はあ……。
さっきから、時間の経つのが遅い。今頃、どうなっているんだろう。考えただけで、ギュッと心臓を鷲づかみされたような息苦しさを感じる。
万が一、遠藤主任が……。想像しただけで、背筋が寒くなった。
いったい、どんな話し合いが持たれているんだろう? こんなことだったら、出席した方が良かったかな。でも、遠藤主任と顔を合わせただけで、恐らくパニックを起こしてしまいそう。だからかもしれないが、高橋さんも敢えて出なくていいと言ってくれたんだ。
時間が経つのが遅すぎて、自分ではどうすることも出来ないジレンマと心の中で葛藤しながら捗らない計算をしていると、足音がして高橋さんの声が聞こえた。
「ただいま」
「あっ。お帰りなさい」
中原さんが、いち早く気づいて高橋さんに声を掛けた。
「お、お帰りなさい」
指先が震えて、電卓を叩く手も止まってしまった。
高橋さんが持っていた書類とファイルを机の上に置いたが、ファイルの中身は何も入ってないらしく、システム手帳と書類だけを机の上に残すとファイルは後ろのキャビネットの中にしまっている。
その光景をボーッと眺めていると、顔の前で手を振られた。
エッ……。
「陽子」
「あっ……。まゆみ」
「あっ……じゃないわよ。さっきから、ずっと此処に立ってるのに、全然気づかないんだから」
「ご、ごめんね。気がつかなかった」
まゆみが、私の右耳元に顔を近づけた。
「もう、ハイブリッジのことばっかり見ちゃってさ。」
うっ。
小声で言われたが、まゆみのひと言に焦って危うく椅子から飛び跳ねそうになって、慌てて背筋を伸ばしたふりをして誤魔化した。
「財務に、書類届けに来たのよ」
「そ、そうだったの。そうだ。まゆみに、話したいことがあったんだけど」
「何?」
「矢島さん。ちょっと、いいかな?」
まゆみと話していると、高橋さんに呼ばれた。
「は、はい」
「じゃあ、またね」
「う、うん」
小声でまゆみと挨拶を交わし、高橋さんの席の方へと向かった。
「……そうだな……中原」
「はい」
「ちょっと、面接してくるから。AかBに居る」